愛してるから‪✕‬‪✕‬‪✕‬


【愛してるから× × ×】
(タイトルは愛してるから(×××は読まなくて大丈夫です)

-登場人物-
悠李(ゆうり)
  身体の一部だけにフォーカスして官能を         映し出す有名写真家。
  しばらくスランプだったが莉湖と出逢っ          た事で再びシャッターを切る事になる
  ありのままの自分を受け入れてくれる莉湖に惹かれていく 
 
莉湖 (りこ)
悠李にモデルを頼まれ引き受け、戸惑いながらも少しずつ惹かれていく。
いつも黒か紺色のワンピースを着ている。
紫陽花に忘れられない思い出がある


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↓上演の際にお使いください
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「愛してるから×××」
作…七海あお

悠李(ゆうり)…
莉湖 (りこ)…
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【使用上の注意】
・利用規約をお読みの上ご使用お願いします。
・Cas画の写真はけーすけ様にお借りしました。Cas画使用の際はお声がけください

・台本にはセンシティブな内容を含みます。
    抵抗のある方はご遠慮ください

・センシティブな内容はほとんどモノローグとして記載し、直接的な表現わわ避けております

・情景を補足する吐息や声は演者様にお任せします。

・こちらの台本を愛し、楽しんでくださったら幸いです

・片摩廣さん主催
ONLY ONEシナリオ2022 企画
   6月「あさがお」をテーマにした台本です
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ここから台本です

■雨が降っている紫陽花が綺麗な公園、傘をささずにしゃがんでいる女性が一人
■それに気づき、傘を女性にさす一人の男性

悠李︰あの…傘、お持ちじゃ無いんですか?
そのままだと、風邪を引いてしまいますよ?

莉湖︰?…雨なんて…降ってますか?

悠李︰えっ?

莉湖︰そっかぁ…これ雨だったのかぁ
   言われたら確かに冷たい気がしてきました…

悠李︰…

莉湖︰この紫陽花がね、とても綺麗だったので…

悠李M
そう言って俺の方を向いた彼女の頬には
雨なのか涙なのかわからない雫が伝っていた
切なさを滲ませたかの様な笑顔は妙に印象的で…俺は目が離せなくなっていた

莉湖︰いずれはさよならするでしょう?
   だから…今この瞬間の綺麗なままの姿を1秒でも長く目に焼き付けたくなっちゃったんです

悠李︰紫陽花、お好きなんですか? 

莉湖︰うん…嫌いだけど好き

悠李︰…?

莉湖︰紫陽花を見てるとね
   人生で一番幸せな瞬間と一番不幸な瞬間が…同時に蘇るから…

悠李︰…

莉湖︰あ、私、何初対面の方にこんな話して…
   ごめんなさい。変…ですよね私

悠李︰変とは誰と…何と比べてですか?
   そもそも人なんてみんな違うのに、同じ尺度で比べようとする方がむしろナンセンスだ

莉湖︰!?
   笑
   そんな考え方もあるんですね
 あ…紫陽花はお好きですか? 

悠李︰ええ、好きですよ
   雨の中でも懸命に咲いてる姿が、とても健気で可愛らしいと思います

莉湖︰そうですか…なら…汚れちゃう前によーくこの子達を目に焼き付けてあげてください
   彼らなりに精一杯…命を咲かせてるので 
   それじゃ
悠李:えっ…あっ…待って…傘

悠李M
時間にしたらほんの数分
たったそれだけ…
それでも俺には充分過ぎるほどの衝撃があった
約束もしていない
彼女がまたここに来る保証などどこにも無い…
なのに…
次の雨の日にはまたここに来る事を…俺は既に心に決めていた


〜数日後〜
■雨、傘をさして紫陽花の前にいる悠李
■傘をさした莉湖がそれに気づかず悠李の横へ。紫陽花に向かって話しかける

莉湖:今日も君達だけは…変わらず綺麗だね

悠李M
たった一度会っただけだ、それなのに
今聞こえた声が誰の物なのか顔を見る前にわかってしまった

悠李:ええ本当に…今日もとても綺麗ですね

莉湖︰ん?今日も…あ…あの時の傘の…
 
悠李:また会いたくなってしまったので…来てしまいました

莉湖:そんなにこの子達のこと気に言ってく            れたんですか?ありがとうございます

悠李:…

莉湖:…?私何か変な事言いましたか?

悠李:…いや…ん?…うーん…

莉湖:あの…もし何か言いたい事があるなら             飲み込まずにはっきり仰ってください
   伝えられてもいない気持ちを想像する            のって、私…とても苦手なんです…

悠李:あー…そんな泣きそうな顔しないで…
          困ったなぁ
  
莉湖:私、やっぱり何か困らせる様な事…

悠李:いや!そういう事じゃ無くて…

莉湖:?

悠李:俺がここに来たのは紫陽花に会う為じ            ゃないんです

莉湖:えっ?

悠李:ここに来たら…またあなたに逢える気            がしたので…

莉湖:!?
   …それって…では、さっきのまた会い            たくて来てしまったというのは…

悠李:ええ…あなたにです

莉湖:帰ります。私、冗談は嫌いです

悠李:冗談なんかじゃないです!自分でも正直何言ってんだろって思ってます。
   でも、気づいたらここに足が向いていたんです
   こんな気持ちになったのは久しぶりで…俺はこの気持ちが何なのか答え合わせをしたい!

莉湖:答え合わせ…

悠李:今日は帰ります。
     あなたを不快にさせたい訳では無いので…
   次に雨が降った日…またここに来ます
   …あなたが俺に会うのが嫌で無ければ…この紫陽花の前に来てくれませんか
   もし許されるのなら、俺にあなたを知る時間とあなたに俺を知ってもらう為の時間をください
では…

莉湖:え?ちょっと待って…

莉湖M
初めて会った時にも思ったけどとても独特な雰囲気の人だ
あの日と変わらず浴衣姿
それが妙に色っぽくてとても似合っている
そしてあの瞳…
あの瞳で見つめられると
必死に押し込めている本音が自分の中から零れそうになる…

誰かに、”逢いたい”なんて言われたのはいつぶりだろう
あの日以来…人に好かれる事がとても怖かった
だけど…
もしまた雨が降ったらあの公園に行ってしまう…そんな予感がした


~次の雨の日~
悠李︰来て…くださったんですね

莉湖︰そんな嬉しそうな顔されるとなんか申し訳ないんですけど
私も…知りたくなったので

悠李︰…何をですか?

莉湖︰あなたの事を…
そして、今私が感じてるこの感覚の…答え合わせをしたいです

悠李︰同じですね。俺と…

莉湖︰はい。同じです

悠李:では…改めて…

莉湖M
彼は”ゆうり”と名乗った
その3文字が苗字なのか名前なのかはわからない
ただ、悠李と呼んで欲しいとだけ…
流石に呼び捨ては出来ないからせめてさん付けで呼ばせて欲しいとお願いすると
少し頬を膨らませながら渋々承諾してくれた。
年齢も職業も特に聞かなかった。彼も聞いて来なかった
その距離感が…とてもありがたかった


悠李M
彼女は”りこ”と名乗った。
職業も年齢もあえて聞かなかった。今の段階では特に聞く必要も感じなかった
呼び捨てにして欲しいと言ったら、それは出来ないと頑なに譲らなかった
柔らかい雰囲気に反して割と意志は堅いらしい
今日もまたネイビーのワンピースを着ている
ふと、彼女には白のワンピースのが似合いそうだなと思った
本人に言うか迷って、結局言葉を飲み込んだ

悠李:またここで逢える日を楽しみにしています

莉湖:はい…また雨が降った日…気が向いたらこちらに伺いますね

悠李:それでは気が向く様に、何か美味しいスイーツでも用意しておきますよ

莉湖:ふふっ…それは誘惑に負けてしまうかもしれませんね
   では…

悠李:ええ…では


〜また別の雨の日〜
<莉湖の家>
莉湖:あっ…雨だ…


莉湖M
そう呟いた自分の声に喜びが滲んでいる事に正直驚いた
雨はあの日を思い出すから苦手な筈なのに…

莉湖:答え合わせ…か笑
   
莉湖M
何を着ようかとクローゼットを開ける
ふと、白いワンピースと目が合う
あの日までは1番のお気に入りだった洋服…
恐る恐る鏡の前で自分にあててみる

莉湖:(ため息)
   何やってんだろ…
   死神が白い服を着ようだなんて滑稽す            ぎて笑えない…
   やっぱりこっちの服にしよう

莉湖M
彼を信じた訳では無い
いや、私はきっと誰の事も最初から信じようとさえしていない
ただ…
あの瞳には不思議と嘘の色が混じっていない…そんな気がした

<悠李の家>
悠李:雨だ…

悠李M
自分の声に喜びの音を感じて戸惑った
遠足を待ち望む小さいガキかよ…
そう悪態をついても雨を待ち望んでいた心になんら変わりは無い
彼女は果たして…来てくれるのだろうか

悠李:あっ…せめて和菓子と洋菓子どっちが好きか聞いとくべきだったな…
そもそも甘いものは好きなのか?

悠李M
りこ…
リコ…
莉湖…
何度も心の中で呼んでみる
彼女の事はまだ何も知らない
確実に会う約束をした訳じゃない
ただ名前を知っただけ…
なのに何故だろう…
この紙袋は決して無駄にはならない…そんな確信があった


<紫陽花の咲く公演>

莉湖:あっ!悠李さん
   今日は私の方が先に見つけちゃいましたね
悠李︰莉湖さん!
   来てくれたんですね…スイーツが効いたかな?
   
莉湖:もう!人を食いしん坊みたいに… 
  
悠李︰笑
   冗談ですよ
   はい。どうぞ

莉湖:…この袋…今有名な行列店の
          …もしかして並ばれたんですか?

悠李︰はい
   俺もまだ食べた事は無いんですけど、仕事仲間が美味しいから絶対これにしろって

莉湖:え?悠李さんもまだ召し上がられた事無いんですか?

悠李︰はい

莉湖:もしかして甘いものはお嫌いだったりします?

悠李︰いいえ。大好きってほどでは無いので頻度は多く無いですけど…好きだしたまに食べますよ

莉湖:あの…良かったら一緒に食べませんか?

悠李︰え?だってそれは莉湖さんに買ってきた物だし…

莉湖:私一人でこんなに食べきれませんから
   もし…お時間大丈夫で、悠李さんが嫌でなければ…ですが…

悠李︰莉湖さんがそう仰るのなら
         …お言葉に甘えてご一緒させてもらおうかな…

莉湖:…では…こっちです

<紫陽花の咲く公園 屋根のあるベンチ>
悠李︰へぇー。この公園にこんな所があるんですね

莉湖︰私のお気に入りの場所です
   屋根があって雨宿りも出来るし、座れるからよくここで読書したりしてました
   では…開けさせていただきますね

悠李︰どうぞ

莉湖︰うわぁー…可愛い

悠李︰クッキーとクリームで薔薇の形を作ってるみたいですよ
   本当に大人気らしくてすごい行列でびっくりしました

莉湖︰そんな行列にわざわざ並んで買ってきてくださったんですね…嬉しいです
   …なんだか可愛いすぎて…正直食べるのが勿体無い気がしてしまいます

悠李︰じゃあこのままずっと一緒に眺めてますか?

莉湖︰!?
   そう…しますか?

悠李︰笑
   莉湖さんに食べてもらう為に買ってきたんですから
   それに食べられなかったらこの子達も可哀想だ
   ほら…どれが良いですか?

莉湖︰…それもそうですね…じゃあ…んー…どれも美味しそうで迷うけど…私はこれを

悠李︰なら俺は…んー…これにしようかな

莉湖︰いただきます

悠李︰どうぞ召し上がれ

莉湖︰うわー…美味しい…人気なのがわかります…甘過ぎなくて止まらなくなっちゃいそうです

悠李︰お好きなだけ召し上がってください。じゃあ俺もいただこうかな
   うん。確かに…甘さ控えめで美味しいな
莉湖︰本当に美味しいです、ありがとうございます

悠李︰いえ…そんなに喜んでいただけたなら、行列に並んで買って来たかいがありました

莉湖︰私…何も用意して来なかった…
   悠李さん…何か欲しいものありますか

悠李︰そんな事急に言われても
   ほんとに、その気持ちだけで十分嬉しいですから

莉湖︰それじゃ私の気が済みません
   さあ考えないで答えてください。今、素直に思った事なんでも良いですから

悠李︰えっ?そ、そんな急に近づかれると…

莉湖︰教えてください!私も悠李さんに、何かお返ししたいんです

悠李︰なんでも良いんですね…わかりました
   そんなに言うなら俺の望みを叶えてもらいます
   仕掛けたのは貴方だ…どうなっても俺は知りませんよ?
   では…俺の家、行きましょうか

莉湖M
部屋に入り、彼の長い指が鍵をかける
今から敬語禁止ね?
と口角を上げてこちらを見た彼の纏った空気は
もうすでにさっきまでの物とは違っていた
獲物を狩ろうとする雄の目
今から私は…やっぱり食べられるのだろうか
付き合っていない男性とこんな事をするのは初めてだ
でも嫌悪感は無かった
彼は獣の目で私を見つめ
莉湖と優しく名前を呼ぶ
と、次の瞬間、私は壁に身体を押し付けられ唇が塞がれる
呼吸をする隙も与えられないほど
それは何度となく繰り返された
キスをされているのだとようやく脳が理解したのは
彼の唇が離れた後だった

悠李︰さぁて…そろそろ良いかな
  最初は優しく始めるから…安心して

悠李M
彼女が黙って頷いたのを確認すると
俺は目の前に見える白く細長いそれに噛みついた
少しずつ歯が皮膚に食い込んで行くのがわかる
一瞬だけ触れていた身体が強ばったが
徐々にそれも解け、色香の滲む声が俺の耳へと落ちてくる

悠李︰痛かった?

莉湖︰うん。でも…

悠李︰でも?

莉湖︰それだけじゃ…なかった

悠李︰痛み以外には何があった?

莉湖︰…それは

悠李︰教えてくれないのかぁ。じゃあ…もうやめる?

莉湖︰…怖いけど…でも…

悠李︰嫌いじゃない?

莉湖︰…

悠李︰思った通りだ…莉湖はやっぱりこっち側の人間だった

莉湖M
嬉しそうに微笑むと彼は再び私の首筋に噛みついてくる
一瞬感じるさっきよりも鋭い痛み
と同時に、身体の奥から沸き上がってくる
何とも例えようの無い感覚
思考が追いつかない
ただ本能だけがそれを貪ろうとする
怖いのに、もっと欲しくなる
どうしよう…こんな自分がいるなんて今まで知らなかった

悠李:今更抵抗してももう無駄だよ?
   さあ、大人しく俺に堕ちて来い

莉湖:んあっ…

悠李M
彼女の頭を後ろから押さえつけ逃げ場を断つ
細い腕は必死にしがみつくかの様に俺の首の後ろに回される
抑えが効かずに唇から漏れ出る声に煽られ
じっとりと汗ばんだ首筋に更に深く俺のを沈める
彼女の声により一層艶が増していく

ああ…ほんとにおいしい

食い込むたびに彼女の身体が跳ねる
俺は夢中になって目の前で乱れ咲く華を、存分に味わい尽くした

<数時間後>
■数回聞こえるシャッター音で目覚める女性
■男は自ら付けた痕を夢中で撮り続けている

莉湖:ん…うーん

悠李:あーあ残念、時間切れかな。おはよ莉湖

莉湖:(あくび)おはよ悠李…え…もう朝…私そんなに寝てたの?

悠李:笑
   冗談だよ
   安心して、まだ夕方だから
   君は極上な味がした
   久しぶりに美味しかったなぁ…
   首から肩にかけてたーくさんの噛み跡
   結構強く噛んだからくっきり残ってる
   あまりに綺麗過ぎてたくさん写真撮っちゃった
  
莉湖:おいしい…
   きれい…
   !?

悠李:あー。だめ。綺麗なんだから隠したら勿体ないだろ?

莉湖:だって…もう…恥ずかしいからそんなにじろじろ見ないで…

悠李:噛まれるの、初めてだった?

莉湖:…はじめて…だった

悠李:そっかぁ…新しい扉開いちゃったねー
   ようこそこちらの世界へ

   あー、違うか。君は元々こっち側の人間で、本来の自分に目覚めただけか
   気持ち良かったでしょ?甘くて艶のある声でたくさん鳴いてたもんね?

莉湖:もう!恥ずかしいから、そうやっていちいち言葉にしないで

悠李:笑
   あー、そうだ…はいこれ、俺の名刺

莉湖:!? 
   この名前…

悠李:知ってる?

莉湖:知ってるも何も…私、写真集…全部家にある

悠李:へぇー、そうだったんだ

莉湖:身体の一部位にフォーカスして直接的な表現は何も無いのに妖艶な官能を描き出す
   どの作品も見る度にとてもドキドキした

悠李:俺の作品にドキドキしてくれたんだー。ありがとう
   俺さ…ずっとスランプだったんだ
   人を撮りたいっていう欲求さえ、実はここ数年全く起きなかった
   なのに今日、君の首筋を見て無償に食べたくなった
   君につけた噛み痕を見ていたら
   思わずカメラを取り出してシャッターを切っていた…こんな衝動何年ぶりかなー
   
   噛まれるのは初めてって言っていたけど君の本能は知っていた…全身で俺を求めていたもんね

莉湖:…否定は…しない

悠李:笑
   かわいい
   ねえ莉湖…雨の降った日、今度はあの公園じゃなくここで会おう
   もちろんモデル代も払う
   君の写真で作品を作りたいんだ。どうかな?

莉湖:私でいいの?

悠李:君がいいんだ
   素敵な作品にするよ
   撮影に必要な事だけ…それ以外は君に一切触れないと約束する
   契約書も用意しとく
   どうかな

莉湖:わかった。悠李がそう言うのなら…精一杯頑張り…ます
 
悠李:良かったー
   うわ…雨強くなってきた

莉湖:雨は嫌い?

悠李:うん、嫌い。頭痛くなるし悪夢を見るから。でも、前よりちょっとだけ好きになった

莉湖:どうして?

悠李:莉湖に会えるから

莉湖:…そういうの、現実世界で言う人本当にいるんだね

悠李:あれ?もしかして照れてる?

莉湖:照れてない…

悠李:ふーん?

莉湖:なに?

悠李:ううん。なんでもない
   モデル、引き受けてくれてありがとう
   俺史上最高の作品を作るよ。改めてこれからよろしくね、莉湖

莉湖:うん。よろしく悠李

<それから何度めかの雨の日>
悠李:っとー…こんなもんかな…
   莉湖、お疲れさま。もう服着て良いよ

莉湖:はーい

悠李:最近毎日雨だなぁ

莉湖:そうだね…梅雨入りしたってニュースやってた
   私、毎日ここに来てる気がするもん

悠李:あのさ

莉湖:ん?なぁに?

悠李:撮影は今日で無事に終わった
   おかげで素敵な作品が出来そうだよ…本当にありがとう

莉湖:こちらこそ…最初は緊張したけど貴重な経験が出来た…
   作品の完成楽しみにしてるね
   …今度会う時は、またあの公園かな
   じゃあね…
      
悠李:莉湖!待って…今日は帰らないで

莉湖:え?悠李どうしたの?

悠李:俺さ…本気で過去1番の作品作るって決めたから…
   必死で今日まで我慢してたんだ

莉湖:何を?

悠李:お前わかってて聞いてんだろ?
   
莉湖:笑
   …正直、悠李って理性めちゃめちゃ強いなぁとは思ってた

悠李:気になってる女性のあんな表情と声聞いて
   手を出さなかった俺の理性すごくないか?

莉湖:うん!えらいえらいほんとによく頑張りました

悠李:な?頑張ったよな俺
   莉湖、今日で撮影終わった
   今日までたくさん頑張った俺に…ご褒美ちょうだい

莉湖:ご褒美?

悠李:莉湖…好きだ…もうこれ以上は我慢出来ない…ダメかな?

莉湖:ダメじゃない
   んっ…

悠李M
そこからはもう無我夢中だった
何度も唇を重ねて全身にも赤い印を落とす
首筋を噛み
まだ一度も触れた事の無かった場所へ指を滑らせる
俺の指が動く度、彼女の甘い声が脳に響く
その声は少しずつ、しかし着実に俺の理性を剥ぎ取って行く

悠李:莉湖、大丈夫だよ…もう抑えなくて良いから
   俺に感じてる声…もっとたくさん聞かせて
   全部…見せて

莉湖M
彼のその言葉を合図に声が止まらなくなっていく
本当に自分の声かと疑うほどに甘く艶っぽい音
私は思わず口を手で覆った

莉湖:んっ…

悠李:だーめ…そんなの許さない

悠李M
声を抑えようと口に持っていく彼女の手を浴衣の帯で縛りあげる
恥ずかしさからなのか
涙目でこちらを睨む表情が堪らなく愛おしい

莉湖:…

悠李:恥ずかしがるなんてまだまだ余裕があるんだなー
   なら…これはどうだ…

莉湖:え?…んぁっ…

悠李M
彼女の中に深く押し入ると耳の奥に直接甘い音が落とされた
…俺の最後の理性はとうとう剥がれ落ち本能が剥き出しになる
中に打ちつける度に反応する彼女に更に煽られていく
俺は眠りに誘われるまでその行為にひたすら溺れ続けた

<翌日の朝>
莉湖:んー…っつ…

悠李:あー莉湖…起きた?

莉湖:悠李…私まだしばらく動けないかも

悠李:いや…俺が無茶し過ぎた…ごめん

莉湖:まさか…あんなに何度もするなんて

悠李:…嫌だった?

莉湖:それは…嫌だったらとっくに突き飛ばして帰ってる

悠李:じゃあ…気持ち良かった?

莉湖:…悠李ってさ、本当に何でも思った事口に出して言うよね

悠李:莉湖にちゃんと俺の事を知って欲しいから
   それに…言われて無い気持ちを想像するのが苦手って言ってたろ?

莉湖:それはそうなんだけど…さすがにこれは…ね?

悠李:あーあー
   昨夜は何度も俺の事を求めてくれたのになぁ
   『もっとして』って
   いつもと違う感じの声で…ほんと可愛かったしえっちだったなぁ
   
莉湖:あの…本当にそれ以上は私なんにも喋れなくなるから…

悠李:(ためいき)
   そういうギャップずるいってわかってる?
   あーもう…さすがに身体しんどいだろうから今日は我慢しようと思ったのに
   我慢出来なくなるじゃん…

莉湖:え?悠李、我慢するの得意なんじゃ…

悠李:あれは撮影中だったから!
   もう無理だよ…
   俺たち身体の相性良いよね
   それに莉湖、想像以上に可愛かったし…エッ…

莉湖:…もういいから!
   で?悠李の気持ちの答え合わせは…出来そう?

悠李:うん
   俺にとってやっぱり君は特別な人だ
   莉湖…愛してるよ
   莉湖は?

莉湖:!?

■突然、過呼吸になる莉湖

悠李:莉湖?どうした莉湖!莉湖?
   これは…過呼吸…か?
   確かこういう時は
   二酸化炭素を送り込むといいんだよな
   ほら、口開けて…
   んっ…
   莉湖…大丈夫だからな
   んっ…
   ほら…ゆっくり呼吸して
   ゆっくり…
   そう…上手


莉湖:…

悠李:莉湖…大丈夫?
   俺が無茶させ過ぎたせいかな…ごめん

莉湖:違う…これは…気にしないで…
   本当に悠李のせいじゃない…私の問題

悠李:でも…

莉湖:家に帰って休めば平気…

悠李:ちょっと…そんなフラフラな身体で動くなんて無茶だ…
   俺も着いてく

莉湖:悠李!
   本当に大丈夫だから…
   驚かせてごめんね
   悠李も撮影終わったんだし今日はゆっくり休んで
   
   また落ち着いたら…会おうね
   作品の完成楽しみにしてる
   じゃあね…バイバイ

悠李M
有無を言わさない張り付いた笑顔
知らない彼女がそこに居た
俺の足は追いかける事が出来なかった
そしてこの時追いかけなかった事を
俺は後になってひどく後悔する事になる…


<2ヶ月後>
悠李:(ため息)
   …人ってこんなに簡単に消えられるものなのか?
   あーもう!なんで連絡先ぐらい聞いとかないんだよ
   俺の馬鹿…

悠李M
もう何度か雨は降った
だがあれ以来、莉湖がここに来る事は一度も無かった
あの紫陽花の咲く公園にも何度か行ってみたが
まるで神隠しにでもあったかの様に、莉湖は俺の前から姿を消してしまった
本名はおろか、住んでいる場所どんな仕事をしているかも知らない
連絡先さえ交換していなかった…
俺が莉湖について知っているのは本当に名前だけだった事を…改めて思い知らされる

少し好きになれた雨が今度こそ大嫌いになりそうだ…

本当はどこにも行きたくないが今日は書店での俺の写真集発売のイベントがある
俺は重い身体をなんとか起こし会場へ向かった

<紫陽花の咲いた公園>
悠李M
来る訳が無いとわかっていても雨の日は勝手に足がここに向いてしまう
イベントが終わり、俺は莉湖と初めて会ったあの紫陽花の咲く公園へ来ていた

  
悠李:もう紫陽花も終わりだな…ほとんど散っている
   (ためいき)
    やっぱり居る筈無い…か…!?
悠李M
ふと視界の端に白いワンピースが通り過ぎた
そんな筈は無いと頭では分かっている
だって莉湖はいつも黒かネイビーのワンピースだった…
でも…
俺は白いワンピースが通り過ぎて行った方向へ思わず走りだしていた

■息を切らして白いワンピースに追いつく悠李
■目の前には目をまん丸にして驚いている莉湖

悠李:…やっぱり君だった

莉湖:…!? 
   悠李…
    
悠李:待って!なんで逃げるんだ
   どうして何も言わずに俺の前から消えたの…
   俺の事…嫌い?

莉湖:…

悠李:傘はどうした…びしょびしょじゃないか
   そのままだと風邪ひくぞ…とりあえず家に来てシャワーでも
   
莉湖:一度寝ただけで彼氏面しないでよ
    何を勘違いしてるかわからないけど、私は一度も貴方の事を好きだなんて言って無い
もしかして自分だけが特別だとでも思ったー?
    おめでたい人…もう私の事は放っておいて…じゃあ
   
悠李:なんでそんな事…
   なあ…いったい何を隠してる?
   何を一人で抱えてるんだ

莉湖:…

悠李:もしかして…最初に言ってた紫陽花の話か…
   紫陽花を見ると人生で一番幸せな瞬間と一番不幸な瞬間が…同時に蘇るからっていう

莉湖:ふっ
   よく覚えてるね、そんな話

悠李:莉湖…

莉湖:…わかった…話すわ
   話すから話を聞いたらちゃんと帰ってね

悠李:…わかった
  
莉湖:私、愛が何か知らずに育ったの
   「あんたなんか産むんじゃなかった」って毎日の様に言われて
   自分が生きていく為にギリギリの量の食事で金づるの私を生かしている様な身勝手で男にだらしのない女(ひと)だった
   ある日通り魔に殺されて呆気なく逝っちゃったけどね…
   
   保護されて
   その施設の紹介で入った職場で出会った人に
   生まれて初めてプロポーズをされた
   紫陽花の花が咲くこの公園で

悠李:…

莉湖:親にさえ愛され無かった私を愛してくれる人がこの世にいるんだって思ったら涙が出るほど嬉しかった
   私は結婚した
   その人は優しくて誠実で仕事も出来て…私には勿体無いぐらいの人だった
   最初はきっと幸せだった…
   でもね…彼は驚くぐらいとても嫉妬深かったの
  
   最初は仕事を辞める様に言われた
   収入が減るのは不安だったけど私は言われた通りに仕事を辞めた
   
   
   次にスマホを取りあげられて
   そのうち食事の買い出しの為の週一の外出以外は家にある檻に入れられて外に出ることを許されなくなった
   違和感と息苦しさを感じてはいたけど
   別に暴言を吐かれる事も暴力を振るわれる訳でも無かった
   これがみんなの言う愛されてるって事なんだって思ってた
   
悠李:…

莉湖:それは偽りの愛で…もう取り返しのつかない事になっているなんてあの時の私は気づいてもいなかったの 
   外出先のスーパーでよく会う人がいた
   元職場の後輩で私のことを慕ってくれてて見かけると声をかけてくれていた
   毎回じゃなかったし、本当に少し仕事の話しをする程度だった
   その日も同じ様にその後輩と話をしていた
   あの日は突然雨が降ってきて傘を持っていなかったから二人でこの公園で雨宿りをしていたの
   
   そこに職場にいるはずの彼が現れた
   なぜか後輩に向かって怒ってて
   後輩が彼に気づいて慌てて挨拶をしに近づいた
   次の瞬間
   後輩は彼のそばで崩れ落ちていったの
   後輩の心臓にはナイフが刺さっていた

悠李:!?

莉湖:彼は後輩の心臓が止まったのを確認するとそのナイフを引っこ抜いて私に向けて来た 
   私は怖くなって気づいたら走っていた
   足がもつれて何度も転びそうになりながらそれでも必死に走り続けて…
   ちょうどこの紫陽花の前に来たところで追いつかれた

   「あいつが悪いんだ君のことをたぶらかそうとするから。君は僕のものなのに」って
   彼は私に一緒に死のうと言ってきた
   私は怖くて嫌だと言い続けた
   最初は怒って私の首を締めてきた。でも私の意思が変わらないのがわかったらしく手を離した
  
   そしてこっちを見てこう言ったの
   「わかったよ。君は僕と一緒には逝ってくれないんだね。なら、一生君の中に生き続けてあげる。
    君がいけないんだ…愛してるよ莉湖」
    そう言って次の瞬間…ナイフで自分の首を…

    私がその日着ていた白いワンピースは一瞬で真っ赤に染まったの
    今起きた事が現実だとはとてもじゃ無いけど受け止めきれなくて
    救急車さえも呼べずにそこに倒れたみたい
    そうしてその公園には二つの死体と気絶している私が転がっていました
    おしまい
    
悠李:…
   
莉湖:ねえ、知ってた?
   紫陽花ってね…本当は赤いんだよ?
   真っ赤なの…
   まるでね、人の血液みたいな色してるんだよ 
   
   この子も…
   それからこの子もこの子もこの子も
   みーんな…一つ残らず真っ赤っか 

■莉湖、狂った様に笑いだす
■莉湖の様子に戸惑っている悠李

莉湖M
悠李、わかった?
私はね…死神なの
だからね…お願い悠李、もう私の事なんて忘れて嫌いになって
   
  
きっと汚れの無い真っ白い服を着る事なんて一生出来ない
これはあの人の残した一生解ける事の無い呪い
あなたにこんな物背負わせたく無いの
私はもう…誰も愛せない…   
誰も愛しちゃいけないし愛されてもいけない

ううん…違う…ね
あなたを愛してるから…
いつの間にか愛してしまったから…
愛してるから…さようなら悠李
   
   
■狂った様に笑い続けている莉湖を見る悠李
■悠李、笑って泥だらけの莉湖を抱きしめる

莉湖:!?
   何するの悠李…離して!お願いだから…

悠李:離さない!
   
莉湖:聞いてたでしょ
   私は死神なの…
   私のせいで二人も死んだ…
   
悠李:それは…莉湖、君のせいじゃ無いだろ

莉湖:今でもね
   時々うなされる…
   雨の降る夜は悪夢を見るから怖くて眠れない
   この前みたいに時々フラッシュバックで息ができなくなる…
   私ね…きっとずっとこのままだよ… 

悠李:莉湖…

莉湖:いっそ死んでしまえたらこの悪夢も終わるのかなって
   楽になれるのかなって思ったりもした
   でもね…結局死ねなくてみっともなく生にしがみついてた
   そしたらこの公園で悠李に声をかけられた…

悠李:うん
   ねえ莉湖…
   もう苦しまなくて良い…
   悪夢は終わりだ…俺と一緒に逝こう

莉湖:それはダメ…
   …写真集…すっごく素敵だった
   どの写真を見ても自分じゃないみたいだった
   貴方は写真一枚で大勢の人の心を動かせる人
   私とは住む世界が違う…
   だから…さよなら悠李
   こんな面倒な女さっさと忘れて幸せに

(遮る様に)
悠李:俺が離したら
   お前一人で逝く気だろ…
   そんなの許さない

莉湖:悠李…そんな事しないからお願い離して
   
悠李:絶対嫌だ!

莉湖:…

悠李:ねえ莉湖
   そもそも莉湖に出会わなければ
   俺はまた写真を撮る事なんて無かったかもしれない…
   今回の作品を素敵だと言ってくれるなら
   それは大半はお前の魅力でもある…
   一緒に逝ってくれないのなら…
   わかった…
   わかったよ…
   残酷かもしれないけどあえて言う
   俺はお前を愛してる
   愛してるから…俺は共に生きる事を選ぶよ…
   莉湖、結婚しよう
  
莉湖:悠李、何言ってるの…

悠李:起こった事実は消えない
   過去は変えられない
   もしかしたらこれからも苦しみは続くのかもしれない

   莉湖の痛みを全てわかってあげる事も
   代わりになる事も俺にはできない…
   けど…
けど…
   隣にいる事は出来る
   お前が泣きそうな時
   苦しくなった時こうして抱きしめる事ぐらいは出来るから…
   
   莉湖
   君の苦しみを欠片で良い…
   俺に持たせてくれないか…頼む

莉湖:悠李…
   そんな事…そんなの許されるはず…
   
悠李:莉湖…何を言われても俺の気持ちは変わらないよ
   だから君の本当の気持ち…聞かせて
   俺のこと嫌い?

莉湖:…悠李…本当に…本当に私で良いの?

悠李:莉湖が良い…莉湖じゃなきゃ嫌だ

莉湖:悠李…私も…私もね…悠李のこと…愛してるの

■悠李に抱きしめられたまま号泣する莉湖

悠李M
愛とは強く残酷だ
バランスを崩すと相手を壊してしまう
そして時に暴力となり誰かを傷つけてしまう
けど…
いや…
愛は強いからこそ…救えるのもまた愛であるのだと俺は信じたい


莉湖M
愛とは時に残酷だ
バランスを崩すと相手を壊してしまう

消えてしまいたいと思う瞬間が今でも全く無い訳では無い
それでも
私と一緒に逝こうと言ってくれた貴方にはまだ生きていて欲しいと思うから
もう少しだけ生に…しがみついていてやろうと思う
左手の薬指で光る指輪の重さを幸せと感じられる事を貴方が教えてくれたから

<翌日 悠李の家>

悠李:莉湖…おはよう

莉湖:悠李…
   おはよう…今日もまた私と一緒に生きてくれる?

悠李:それはこっちのセリフ
   愛してるよ…莉湖

■微笑み合ってキスをし、そのまま抱き合う二人

END

君が愛に傷つけられたなら…救えるのもまた愛であっても良いだろ?

シナリオの海

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