ショコラなんて大好きだ
男女サシ劇台本です
片摩廣様主催の
#オンリーONEシナリオ2022
という企画の2月の台本として投稿しました
※作中にタイトルコールをするところがあります
上演時間:50分
(間の取り方により変動します)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【登場人物】
如月 カレン♀︎
思い込むと迷わず突っ走る性格
本当は甘いものはそこまで好きでは無いが
幼なじみのソラの夢を応援する為協力している
ある事をきっかけに彼女の世界から色が消えた
今は休職中のデザイナー
雪下ソラ♂
言葉はぶっきらぼうだが優しく手先が器用
コンテストで優勝し将来を有望視されていたショコラティエ候補だったが
ある日を境に味覚障害になってしまった。
1度は諦めたがある目的の為ショコラティエになる事を目指して日々奮闘している
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
劇用にお使いください
↓↓↓
「ショコラなんて…大好きだ」
如月 カレン♀︎
雪下ソラ♂
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【STORY】
ソラ
俺の世界にはある物が欠けている
カレン
私の世界にはある物が存在しない
ソラ
それでも
叶えたい夢がある
カレン
届けたい想いがある
ソラ
だから俺は
カレン
だから私は…
ソラ
ショコラなんて
カレン
大好きだ
〈ソラの家 〉
ソラ
「本当に今回は本気で過去一番の自信作だから!」
カレン
「うん。わかった。そのセリフもう何回目?私、何度その言葉に騙されたか·····」
ソラ
(被せて)
「今回はほんとに本当!お願いしますカレン様!おまえの舌だけが頼りなんだよ~頼む!」
カレン
「不味かったら高級シャンパン奢ってもらうからね」
ソラ
「おう。いいぞ」
カレン
「うーん。見た目はどっからどう見ても美味しそうなショコラなのよねー」
ソラ
「サンキュ。肝心なのは味だろ?ほら、早く早く」
カレン
「わかったってば。今回は大丈夫今回は大丈夫。これは美味しいショコラこれは美味しいショコラ」
■カレン、覚悟を決めて一口食べる。食べているうちに段々と表情が険しくなる
ソラ
「ん?あれ?どうした?」
カレン
「ソラ~この味、もしかして·····」
ソラ
「ん?わさび。今回は和とショコラのマリアージュを意識してみたんだ。美味いか?」
カレン
「罰ゲームか!わさびどんだけ入れたの?」
ソラ
「1本」
カレン
「い、1本?????丸々?」
ソラ
「そう!生わさび。産地に行って美味しいの分けてもらったんだ。わざわざ鮫肌も取り寄せて、ちゃんと手でおろしたんだぞ?」
カレン
「まさかのチューブじゃなくて生だった…いや、そのこだわりは毎回ほんとに凄いなって思うんだけど····限度ってものがあるでしょ·····」
ソラ
「えー。ちょっと辛いけど美味しいのに」
カレン
「ちょっとぉぉぉ?
ねぇ?これのどこがちょっと?辛すぎて涙止まんないんだけど?
ほら、ねぇ、見える?わ・た・し・の・な・み・だ!」
ソラ
「悪かったって。あーあ。良いアイディアだと思ったのになー」
カレン
「うん。アイディアはとっても素敵だと思うよ?アイディアは、ね?」
ソラ
「··········」
カレン
「やった。ソラの奢りね?んー。どれにしよっかな~」
ソラ
「………」
カレン
「ん?ソラ?」
ソラ
「いや…俺こんなんでほんと間に合うのかなって、もうコンテストまであんま時間ねぇのに…まじ、何やってんだろ俺」
カレン
「ねえ、ソラ?ちょっとさ、今から外出ない?」
〈小さい山の上の公園 〉
■先にスタスタ登っていくカレン
■置いていかれるソラ
ソラ
「おい!お前体力ありすぎ!ちょっと待てって…」
カレン
「早く早くー」
ソラ
「外出るってただの散歩かと思ったらこれじゃ軽い山登りだっつうの!なんだこの小さな山もどき!
はぁー。ようやく頂上着いたー」
カレン
「お疲れ。ここね、私のお気に入りの場所なんだぁ。気分転換したくなったらここに来るの。
ねえ、下、見てみて?」
ソラ
「ん?下?おおー。すっげぇ!この街全部見下ろせんじゃん!」
カレン
「うん!なんかさ、この街は自分が支配してやったぜ!みたいな気分にならない?」
ソラ
「確かに笑」
カレン
「っていうのは冗談で」
ソラ
「冗談かよ笑」
カレン
「今ここから見えてる建物や家にはたくさんの人がいて、いろんな事それぞれ抱えてる」
ソラ
「……」
カレン
「きっとさ、もがいたり悩んだり、時には泣いたりしながらもみんなちゃあんと今を生きてる」
ソラ
「……」
カレン
「それってさ、なんか戦友みたいじゃない?一緒にはいないけど共に闘ってる。みたいな」
ソラ
「戦友。共に闘う」
カレン
「そっ。闘ってるの。
誰もがね?この世に生まれてきたからには幸せになりたくて、夢を持ちたくて、叶えたくて、生まれてきた意味を見出したくて、生きた証を残したくて、大切な人を護りたくて…
みんな折れそうな、諦めそうな自分の心ときっと毎日必死に闘ってる
ああ。こういう思いしてるの、私1人じゃないんだろうなぁって想像してみるとね
もうちょっとだけ、頑張れそうな気がするんだよね」
ソラ
「カレン…」
カレン
「ソラ?泣いて良いんだよ?弱音吐いて、愚痴っても良いの
苦しくて歩けなくなったら立ち止まって心の荷物を降ろすの」
ソラ
「……」
カレン
「絶対…なんて軽々しく言えないけど毎日ソラのショコラ作り見てて、ショコラ食べててね?伝わってくるんだ。真剣な想い」
ソラ
「……」
カレン
「経験は誰にも奪えない宝物。技能が同じなら、より想いが強い方に心を動かされる。前ね?仕事休職する前に職場の先輩に言われたの」
ソラ
「へぇー。良い言葉だな」
カレン
「うん。あなたが今日まで積み重ねた経験は誰にも奪えない。決して無駄にならないから
安心して、ちゃんと休んで心の荷物降ろして来なさいって
立ち止まる事が怖いのかもしれないけど、荷物が軽くなったら次に出す一歩は前よりずっと軽くなる。
そしたら無理に頑張ってた時よりももっと楽に楽しく、次の一歩が前に出せるって
あの時はよくわかんなかったけど
今ね?
なんか少しわかって来た気がするの…
ソラ、焦る気持ちは分かるけど毎日はさすがに頑張りすぎ!
実はね…私、そろそろ仕事復帰しようと思ってるんだ」
ソラ
「えっ?マジで?」
カレン
「うん
だからしばらく忙しくなるだろうし試食も出来ないからさ
ちょうど良いしちょっと休憩しよ?っていうより、休憩…して?」
ソラ
「そうだな。焦ってすぐにどうにかなるもんでもねぇしな。ありがとな、カレン
あっ!でもお前無理してまた倒れんなよ?ほんとあの時は生きた心地しなかった」
カレン
「うん。ごめんね
先輩にもめちゃめちゃ言われてるからちゃんと気をつける」
ソラ
「ああ。本当にお願いします」
カレン
「はい。
ねえ?あの時は本当に心配かけてごめんね。ちゃんと休め。なんて、倒れていろんな人に迷惑かけた私が、偉そうな事言えないよね…」
ソラ
「そんな事…」
カレン
「ごめんね、ソラ
私がこうなったのは、ソラのせいじゃないのに…
私が、ただバカなだけだったのに…」
ソラ
「そんな事…
あんな風になる前に
俺がもっと早く気づいてたら、あんなに毎日そばにいたのに…」
カレン
「そんなの!
私だって自分の事気づいて無かったんだもん
助けだって誰にも求められなかった。職場の人にも家族にも…誰も気づくはずないよ…
大丈夫って聞かれても
あの時の私は大丈夫しか言えなかった
それしか、答えを持ってなかった…
ねえ?ソラが自分を責める必要なんてどこにも無いんだよ?
責任感じる事なんて無いんだよ?
もうお願いだから自分の事許してあげて?ね?
ソラの味覚障害の原因、もしかしたら私なんじゃないかと思うとほんとに申し訳なくて…」
ソラ
「違う!それは違うよカレン。違うんだ…
これは完全に俺の弱さが原因だから…
カレンこそ、もう責めなくて良いんだ。
大好きな物を自分から奪わなくて良いから…もう、お願いだから、自分を許してやってよ」
カレン
「ソラ…違うの!それこそソラのせいじゃない!本当に違うの…
たぶん心と身体がね、お前は機械じゃないぞ!もう仕事すんな!もう限界だ!って
私がちゃんと休む為に、明日を生きる為に、ストライキしてくれたんだよ」
ソラ
「カレン…」
カレン
「あのね?
私の世界から色が消えたのは悲しいしめっちゃ悩んだよ?
でも私、そのおかげでちゃんと休める様になった。休んでも良いんだって、ようやく思える様になった
それにね?前は色とかデザインだけに頼ってたんだけど、色が無くなって文字とか形とか…今までそんなに意識してなかったことにね、改めて向き合える様になったの」
ソラ
「でも…」
カレン
「んー。じゃあさ、おあいこ…って事にしよ?
ごめんね。もっと早くこの話しして謝らなきゃって思ってたんだけど
思ったより時間かかっちゃった…」
ソラ
「それなら。俺だって…
俺のせいなのになんにも出来なくて…」
カレン
「そんな事ない!夢を諦めてまで、私が普通の生活出来る様になるまで、こうやってずっとそばにいてくれたじゃん。ソラはただの幼なじみなのに…」
ソラ
「それは…その…俺がそうしたかったから…」
カレン
「だとしても…
たとえ同情だったとしても、私はすっごく救われた
でもね、すっごく勝手なんだけどソラの夢を私が奪ってしまったんだなって実はずっと苦しかった」
ソラ
「それは…俺の夢はそもそも」
カレン
「だからね…
決して簡単じゃないかもだけど
ソラがまたショコラティエになりたいって言ってくれた時、ほんとに、すっごく嬉しかったの」
ソラ
「カレン…
なあ?ごめんなさいは今日でお互いに終わりにしよう」
カレン
「でも…」
ソラ
「でもじゃない!
それに俺諦めてないから…
お前だって知ってるだろ?」
カレン
「うん」
ソラ
「よし!戦友として宣戦布告!俺は必ず味覚を取り戻してショコラティエになる!」
カレン
「望む所よ!私も!色を取り戻してまたデザイナーとして世界を動かす広告を作って見せる!奇跡を信じて、今出来る事を精一杯やる!きっと希望は…残ってるよね?」
ソラ
「おう。きっと…じゃあ、戦友同士誓いの握手」
カレン
「うん!」
ソラ
「カレン…本当に…本当に無理だけはすんなよ?」
カレン
「わかってるって。ソラも、ちゃんと休むんだよ?」
ソラ
「おう!」
〈過去の回想へ 〉
カレンM
あの時の私はコンプレックスの塊だった
夢を叶えたい
良い仕事がしたい
よりも
なんとか頑張らないと
ライバルに勝たないと
結果を出さないと
という、とにかくなんとかしないとという、焦りの感情でいっぱいだった
才能の無い私は誰よりも頑張らないといけない
だから
睡眠や食事や休みを放棄してでも、仕事をする時間を作るのが当たり前だと思っていた
コンテストが近かったのもあって仕事が終わったら毎日ソラの家でショコラの試食をするのが定番になっていた
少しでも頑張っているソラの役に立ちたくて色々な有名店のショコラを毎日の様に食べまくっていた
やらないといけないことがあり過ぎて
毎日時間が足らなくて
そんなある日だった
私は職場で
意識を失った…
ソラM
ようやく夢が叶う
たくさんのフラッシュをあびて
色んな人に祝福されて
俺はコンテストで優勝して浮かれていた
この喜びを早く伝えたくてスマホを鳴らすと、聞こえて来たのはよく聞き慣れたカレンの物では無く、知らない別の声だった
ソラ
「あれ?これ、カレンのスマホじゃ…えっ?カレンの…職場の先輩?えっと、どうも初めまして…あの…カレンは?えっ…」
ソラM
言われている事を頭で理解出来ないまま
俺の足は走り出し病院に向かっていた
〈過去、病院 〉
■息を切らし病室まで走っていくソラ
ソラ
「カレン!カレン!あっ。あー、さっきの電話の…雪下ソラです。カレンがいつもお世話になってます。あの、カレン。如月カレンさんに会いたいんですけど…
えっ?面会謝絶?それ、どういう…事、ですか?」
ソラM
元々カレンは、ほとんど寝ない、食べない生活をしばらく続けていて極度の栄養失調に陥って免疫が極端に下がっていた
そこに肺炎を併発してかなり危険な状態なのだと、泣きはらした目をしたカレンの職場の上司と名乗る人が教えてくれた
お医者さんが言うには高熱が続いていたのだから相当苦しかったはずだと
そしてこのまま二度と目覚めない可能性もあるので覚悟して欲しいと
ソラ
「えっ?嘘…だって昨日もあいつ笑顔でコンテスト頑張ってって…そんな、熱があるなんて一言も…」
ソラM
今日のコンテストは
パティシエの登竜門で
優勝するとフランスの有名店から声がかかる
俺はこれにかけていた
夢を叶える事もそうだけど
優勝したらある1つのサプライズを計画していた
なのに…
もうすぐ夢は叶うのに
それを1番伝えたい人が生死をさ迷っている…
俺は絶望のまま
近くの神社に来ていた
ソラ
「なんだよ俺…未来どころか、今も見えてねぇじゃん…自分の事ばっかじゃん!
あんなに毎日そばにいたのに気づけなかったなんて…
カレンがいたから叶えられたのに…カレンが…いたから…カレン…カレン…
そもそもカレンがいなきゃ意味ねぇんだよ…
俺は…カレンを笑顔にしたくてショコラティエを目指してきたのに…
なあ?聞いてるか?
もしも神様なんてやつが本当にいるなら
カレンの命を奪わないでくれ!
あいつは今叶えようとしてる夢があるんだ!
誰よりも頑張ってきたんだ…
だから…助けてくれよ…頼む…
俺が持ってる物なら全部くれてやるから!
なぁ!なぁ……
どうかカレンを…守ってくれ…頼む…頼む…」
ソラM
1週間後、カレンは目を覚ました
命の糸が切れるギリギリのタイミングだったと医者に告げられた。まさに奇跡だったと
そしてそれと同時に俺の味覚は跡形も無く、まるで初めから存在していなかったかの様にどこかにキレイさっぱり消え去っていた…
そして数か月後…カレンの世界から…色が、消えた
-回想終わり-
〈現在へ 〉
カレン
(ため息)
「あー。ヒマだなぁ…
ソラに休んで欲しくてあんな事言ったけど、色がわからないデザイナーが復帰するのは現実問題なかなか難しいんだよねー
先輩達はいつでも戻ってこいって言ってくれてるけど…また迷惑かける訳に行かないし…そもそも私に才能なんてあるわけ…ん?先…輩?」
■電話を取るカレン
カレン
「お疲れ様です。はい。えっ?
あぁ…はい。まあなんとかやってます
体調?あー…あの時よりはだいぶ元気です
ちゃんと休んでます
え?あぁ、ありましたね
懐かしいなぁ
そんな事、よく覚えてましたね
えっ?ええぇぇえ?
それ、本気で言ってます?
えっ?いや本人の強い希望ってそんな事突然言われても…
えっ?はっ?えっ?それ、まじですか?
えっ?待って…やばい泣きそう…
先輩…これ夢ですか?今すぐ私のほっぺたつねってください~」
-数ヶ月後-
〈ソラの家〉
ソラ
「えっ?それ…マジで?」
カレン
「うん…写真、送られて来て…」
ソラ
「俺、それ見ても良いやつ?」
カレン
「うん」
■ソラ、あまりの美しさに言葉を失う
ソラ
「……」
カレン
「どんな感じ?やっぱりすっごい素敵だよね?きっとめちゃめちゃ素敵なんだろうけど…私にはわかんなくて」
ソラ
「これ!今散々CM流れてるやつじゃん」
カレン
「うん」
ソラ
「へー…カレンが考えたキャッチコピーだったんだ」
カレン
「うん…」
ソラ
「このデザイン、お前がデザイナーになるきっかけになった憧れの人のだろ?」
カレン
「そう…まさか先輩に相談されてこんなのどうですかー?って伝えたキャッチコピーをさ、先輩が憧れのあの人の広告に私の名前で使っててそれで、賞まで取るとかなんかもう色々急展開過ぎて…」
ソラ
「いつか一緒に仕事するんだ!ってお前がデザイナーになるって決めた時の夢だったもんな」
カレン
「うん!しかも素敵なキャッチコピーをありがとう!またあなたと一緒にお仕事したいって…まさかのご本人から言われて…」
ソラ
「マジかよ!すげぇじゃんそれ!」
カレン
「うん。仕事戻るの怖いとか私には才能無いとか色々ぐちゃぐちゃ思ってたのに、なんかもう気づいたら、うん。て、考えるより先に頷いてた」
ソラ
「そりゃそうだろ!おめでとうカレン」
カレン
「ありがとう!ソラ」
ソラ
「そっか。先越されたなぁ…まっ、すぐ追いつくけど」
カレン
「うん」
ソラ
「なあ?目、つぶって?」
カレン
「えっ?何で?」
ソラ
「いいから早く目つぶれって」
カレン
「えーなになに?怖いんだけど。んー。これで良い?」
ソラ
「俺が良いって言うまで絶対目開けんなよ?」
カレン
「はーい」
■ソラ、キッチンの冷蔵庫に自分が作った大きめのショコラを取りに行く
カレン
「んー。なんか声遠くなった?なんだろぉ、気になるぅ。
今はあっちに言ってるだろうし、ちょっとぐらい開けてもバレな…」
ソラ
(被せて)
「バレてるぞ?」
カレン
「あっ…ソラ、おかえり~。ま、まだ開けてないもん」
ソラ
「まだって事は開けるつもりだったんだよな?お前はほんともう…」
カレン
「だって気になるじゃん。ねえ?もう良い?」
ソラ
「おまたせ。ああ。もう目開けていいぞ」
■カレン、目を開ける。目の前には大きな花束の形をしたショコラ
カレン
「うわぁー。凄~い…これって…花束?」
ソラ
「ああ。ショコラで作った」
カレン
「え?これショコラなの?全部?」
ソラ
「そっ。お前の会社の先輩、俺が手伝わせてもらってる店の常連でさ、俺にお前の賞の事言いにきてくれたんだ。だから準備した」
カレン
「食べて良いの?」
ソラ
「もちろん。お前の為に作ったんだから」
カレン
「でも、こんな素敵なの…なんか食べるの勿体ないよ…」
ソラ
「食べる為に作ったんだけど?
ああ。ならそのままずっと眺めとくか?早く食わないと溶けて無くなっちまうだろうけどな」
カレン
「え?それは絶対ヤダ!ソラ、いただきます」
ソラ
「はいはい。めしあがれ」
■カレン、あわててショコラの花びらを1つ食べる
カレン
「……」
■カレン、何も言わずに次々に他の花びらのショコラを食べていく
ソラ
「え?おい。そんな一気に食って大丈夫か?」
カレン
「ねえソラ…これってもしかして花びらごとに全部味が違ったりする?」
ソラ
「ああ。当たり。全部で7つの味がある」
カレン
「………すっごく…美味しい」
ソラ
「え?」
カレン
「今まで食べてきたどのショコラよりもダントツでおいしい!」
ソラ
「えっ?ほんとに?マジか…やっべぇすっげー嬉しい」
カレン
「それにさ、ショコラを食べて目を閉じるとね、なんか目の奥に色とか景色のイメージが広がる気がするの。色が見えてるわけじゃないんだけど…なんでだろう不思議…」
ソラ
「ああ。味だけじゃなくて…目で見ても楽しめるショコラにしたくて。
花束ってさ、すっげぇカラフルだろ?だからそれをイメージして…
あと、味からも色がイメージしやすい様にフルーツとかお茶とか…そういう物を使ってみた」
カレン
「だからかー。ショコラで作った花束。
形だけでもすっごく素敵だけど色がついたらきっともっともっと素敵なんだろうなー。見たかったなぁー。
見れなくて、ちょっと…いやかなり残念」
ソラ
「カレン…」
カレン
「ソラ、ほんとにありがとう!すっごく嬉しい。
最高のプレゼントもらっちゃったなぁ」
ソラ
「そんなに喜んでもらえて良かった。どういたしまして」
カレン
「あのね?こんな凄いショコラのあとに出すのは、ちょっとあの…だいぶ勇気がいるんだけど…」
ソラ
「ん?何?」
カレン
「なんていうか今までの感謝の気持ちも込めてっていうか…
はい、これ」
ソラ
「箱?開けて良い?」
カレン
「うん」
ソラ
「これは…クッキー?なんか文字が書いてある」
カレン
「アイシングクッキーっていってね?焼いたクッキーに絵とか文字を書くの。私は色がわからないし、絵も上手くないから…せめて文字でって…」
ソラ
「wish your dream comes true。(ウィッシュ ユア ドゥリームス カムトゥルー)あなたの夢が叶います様に…か 」
カレン
「うん」
ソラ
「ああ。だから星の形?」
カレン
「うん。もし味が分からなくても目で伝えられたら良いなって…」
ソラ
「カレン」
ソラ
「私のせいで何年も遠回りさせてごめん
でも、きっとソラなら絶対夢を叶えられるって信じてるから」
ソラ
「ごめんは終わりって言ったろ?それに味覚障害は別にお前のせいじゃないっつうの。
まあでも…サンキュ」
カレン
「うん。どういたしまして」
ソラ
「なあ?食って良い?」
カレン
「あー、良いけど…
でも、ソラ、味わからないんだし無理して食べなくても…って、あっ」
■カレンが話している途中でクッキーを食べ始めるソラ。かみしめる様に何度も何度も噛む
ソラ
「……」
カレン
「あの…ちゃんと毒味はしたから…まずくは無いと思うんだけど…」
ソラ
「……ああ。ああ…」
カレン
「ソ…ラ?どうしたの?」
ソラ
「……うまいよ…すっげぇうまい…お前みたいな…すっげぇ優しい味がする」
カレン
「えっ?」
ソラ
「いつぶりかなぁ…味……ちゃんと…した」
カレン
「嘘!ほんとに?」
ソラ
「こんな事で嘘ついてどうすんだよ」
カレン
「だって…」
ソラ
「まぁ、そう簡単に信じらんねぇよな?
俺だってまだ信じらんねぇもん
んーそうだな…
あ。お前、きび糖使ったろ?
この柔らかい甘さは…たぶん奄美大島産?」
カレン
「当たり…」
ソラ
「添加物も保存料も入ってないし…砂糖の量も、通常のレシピよりだいぶ少ないよな?」
カレン
「そう。ソラ、甘いのそんなに好きじゃないでしょ?だから…」
ソラ
「お前もな?」
カレン
「えっ?」
ソラ
「俺の為にってすんげぇ数のショコラ色々食べて研究してくれてるけど…ほんとは甘いもの、そんな好きじゃねぇだろ?」
カレン
「…気づいてたの?」
ソラ
「最近試食してもらう様になってから、何となく…」
カレン
「嫌いな訳じゃないんだけど…甘すぎるのとかそんなに得意じゃなくて…
でもね?」
ソラ
「ん?」
カレン
「ソラが作るショコラはね、ほんとに大好きなの。心からおいしいって思うの」
ソラ
「そっか…なら良かった。なあ?これ全部食って良いの?」
カレン
「うん。ソラの為に作ったから。私もソラが作ってくれたショコラ食べよっと。なんか紅茶飲みたくなっちゃった。ソラはコーヒーにする?」
ソラ
「えっ?あー。うん」
カレン
「わかった。奥のキッチン借りるね~」
■カレン、キッチンへ
ソラ
(ため息)
「そうだよな。奇跡はそう簡単には起こらない…か」
ソラN
あの日から、何を口に入れても何の味もしなかった
それはとても虚しく…ショコラティエになる夢を叶えるには絶望的な欠点だった
もう二度と味を感じる事は出来ないのかもしれない
どこかで覚悟していた
だから…味覚が戻ってきた事は本当に思わず泣いてしまうぐらい嬉しい事だった
そのはずなのに…
心に残るもやっとした感情
ソラ
「カレンも一緒に…なんていくらなんでも贅沢過ぎか」
ソラN
ショコラの色が見れないと残念そうなカレンの表情が頭から離れない
そうか…そうだよな…
そういえばそうだった…だってそもそも俺の夢は…
■カレン、マグカップを2つ持って戻ってくる
カレン
「お待たせ~。熱いから気を付けて飲んでね~」
ソラ
「ああ。サンキュ」
カレン
「……」
SE:マグカップが落ちて割れる音
ソラ
「ん?カレン?どうした!大丈夫か?おい!ケガしてないか?ヤケドは?」
ソラN
カレンの手からマグカップが滑り落ち割れていた
その側で泣き崩れうずくまるカレン
俺の質問に首を振りながらそれでもひたすら泣き続ける
ソラ
「カレン?本当に大丈夫か?ケガ…」
カレン
「…想像…してたより…ずっと、キレイ…」
ソラ
「えっ」
カレン
「すっごくキレイだよ…そっか…こんな色だったんだー。凄いね。すっごくカラフルで本物の花束みたい」
ソラ
「えっ?カレン…嘘…もしかして…見え、るのか?」
カレン
「うん…見える…見えるよ…ソラ、
何色かハッキリ見える!
すっごくキレイな…花束だね…二人一緒に…奇跡…起こったね」
ソラ
「ああ…だなっ」
カレン
「なんでソラまで泣いてんの?」
ソラ
「嬉しいからに決まってんだろ」
カレン
「自分の味覚戻った時より泣いてんじゃん」
ソラ
「そんなの。当たり前だろ。俺は、ただ罪悪感だけでこんなに長い間誰かと一緒にいられるほどお人好しじゃねぇよ」
カレン
「え?それってどういう…」
ソラ
「なあ?あの日言えなかった事、今言っても良いか?」
カレン
「なに?」
ソラ
「カレン、俺はお前が好きだ」
カレン
「……うん。私も」
■顔を見合わせ、笑いあいどちらからともなく抱きしめる
ソラ
「俺さ、一人前のショコラティエになるから…ちょっと…いや、だいぶ待たせるかもしれないけど…その時は、結婚しよう」
カレン
「うん。待ってるね」
<◯年後>
ソラN
俺は無事にコンテストで優勝し単身、パリに渡った
カレンに一緒に行こうと言ったが断られてしまった
憧れの人から依頼されている仕事があるからそれをきちんとやり遂げたいし
迷惑をかけても自分の復帰を信じて待っていてくれた職場のみんなへ恩返しがしたい
そして、俺がいない状態でもきちんと自分で立てる様になりたいし
今はなにより俺に、ショコラティエになるという夢を叶える事に集中して欲しいからと
そばにカレンがいないのは正直寂しくはあったけど
とてもカレンらしいなと思った
そして月日は流れとうとう俺は夢を叶えた
今日はカレンが仕事でこっちに来る事になっている
何年ぶりかの再会だが俺はあろうことかすでに遅刻している
カレン
「もう!遅い!」
ソラ
「わりぃ。ちょっと人につかまっちゃって…」
カレン
「うん。さっきからいろんな女の子に声かけられてんの見てた。おモテになりますねぇ?ショコラプリンス様?」
ソラ
「それやめろって…俺が言ったんじゃないからな?
お前が、口に入れた途端プリンセスになる特別なショコラってキャッチコピーつけるから、メディアが勝手に…
ん?あれ?もしかしてそれ…ヤキモチ?」
カレン
「違いますー。あーあ。なんかショコラにソラの事取られた気分…もう!ショコラなんて…」
ソラ
「カレン?」
カレン
(怒り気味に)
「なあに?」
ソラ
「はい」
カレン
「え?なに?んっ…」
■カレン、ソラが手で入れたショコラを食べる
ソラ
「お味はどうですか?プリンセス?」
カレン
「悔しいけど、とっても…おいしい…です」
ソラ
笑
「それは良かった。なあ、カレン?」
カレン
「今度はな…」
ソラ
(被せて、囁く)
「ずっと会いたかった。大好きだよ」
カレン
「ずるい…」
ソラ
「カレン?」
カレン
「ソラなんて…」
ソラ
「ん?」
カレン
「ソラ、なんて…」
ソラ
「ん?なーに?」
カレン
「大好きだよ…バカ」
END
0コメント