護り守られ鳴る鈴は…
女性サシ劇台本です
〈説明 〉
こちらの作品だけで完結しておりますのでこの台本だけでもお楽しみいただけますが
「満ちて欠けては繋がって·····」のスピンオフ作品となっております。
世界観を知りたい方は併せてご覧ください
上演時間︰約40分(演者様の間の取り方やテンポにより前後します)
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「護り守られ鳴る鈴は…」
作︰七海あお
鈴︰
凛︰
本編┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【凛と鈴の家】
■凛、夢を見ている
■夢の中、幼い日の鈴と凛が会話している
幼い鈴
「ねぇお姉さま、この鈴壊れてます」
凛
「ん?なんでだい?」
幼い鈴
「だってほら、こうやって振ってみても、全く音が鳴らないんですよ?鈴なのに音が鳴らないなんておかしいです!絶対壊れてます!」
凛
「どれどれ?ちょっと見せてごらん?」
幼い鈴
「はい。どうぞ」
凛
「ありがとう、鈴。借りるね?どれどれ?
あー。なるほどねー。そういう事かい」
幼い鈴
「何か分かったんですか?」
凛
「これは護り鈴だから…今はこれで良いんだよ」
幼い鈴
「まもり鈴?」
凛
「そう。いつか鈴の事をきっと守ってくれるから、
大切に持っておきなさい」
幼い鈴
「はい。わかりました。じゃあ…これ…はい。どうぞ」
凛
「ん?なんだい?」
幼い鈴
「この鈴、お姉さまにあげます」
凛
「いいのかい?大切なものじゃないのかい?」
幼い鈴
「私には、この鈴があるし…それに……」
凛
「ん?なんだい?ゆっくりで良いから言ってごらん?」
幼い鈴
「あの…えっと…大切なものだからこそ、大好きなお姉さまに持ってて欲しいんです。この鈴持ってたらお姉さまの事守ってくれるんですよね?
あの…でもいらなかったら全然…」
凛
「もう!鈴は本当にいじらしくてかわいいねー。
大切な妹の嬉しい気持ちのたくさん詰まった贈り物、要らないわけないだろう?
じゃあ遠慮なくもらおうかな。
ありがとう。一生大切にするよ。
…なあ鈴?」
幼い鈴
「なんですか?」
凛
「私達は姉妹なんだし、もうさ…その丁寧な話し方、そろそろやめないかい?なんかこそばゆいんだよ…
それに…お姉さまって呼ばれるのも嬉しいんだけどさ…
鈴とは姉でもあり、親友でもいたいんだ。だから名前で呼んでもらえたら嬉しいなーなんて思うんだけどさ…ダメかい?」
幼い鈴
「お姉様の事…名前で呼んでも良いの?」
凛
「当たり前だろ?むしろ大歓迎だよ!鈴、あたしの名前呼んでくれるかい?」
幼い鈴
「り…りん?」
凛
「ふふっ。なんだい?」
幼い鈴
「りん?」
凛
「ん?」
幼い鈴
「りん!だーいすきだよ?」
凛
「あーもう全くこの子はなんてかわいいんだいほんとに…」
幼い鈴
「痛い痛いっ!もうそんなに強く抱きしめられたら苦しいってば~りん…」
■凛、起床
凛
「はっ!なんだい夢か…
私、いつの間に眠っちまったんだろうねー。
それにしてもずいぶん懐かしい頃の夢だったな。
あー。あの頃の鈴、ほんとに可愛かったなー。
どこに行くにもりん、りんってくっついてきてさ…
(ため息)
最近は何を考えているのか全く想像さえつきやしない。
元気が無いのは何となく感じてはいるんだけど…私にはなんにも言ってこないし、いったいどうしたもんかなー
私じゃあの子の力にはなれないのかな?
偽物じゃ…やっぱりダメなのかな?
ねぇ、母様?
あっ。もうこんな時間か。そろそろ晩御飯の支度しないと」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【山の中】
鈴
「もう!なんなのよ凛てばっ!
一人で全部抱え込んで、いっつもいっつも私だけ何も知らないんだから!
姉の前に親友でいたいって言ったのは凛じゃない…
私だって…凛の為に何かしたいのに…
ああ、もうすぐ日が落ちそう
早く用事済ませて急いで帰らないと凛が心配するなー。
置き手紙は書いたからちゃんと伝わってると良いんだけど…とにかく…急がなきゃっ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【凛の家】
■夕飯の支度をしている凛
凛
「さてとどうかなー…
うん!今日も良い味。
そういえば鈴、今日は降りてこないなー」
■上の階に向かって呼びかける
凛
「鈴ー!
ご飯出来たよー!冷めないうちに食べよう?鈴ー?」
■二階から返事は無い
凛
「おっかしいなー」
■凛、鈴を呼びに上の階へ
凛
「鈴ー?ご飯出来たよー!」
■鈴の部屋を見回し、鈴がいない事を確認する
凛
「ん?あれ?いない…なんだこれは?手紙?」
■手紙を読む凛
凛
「一人で考えたいことがあります。ちゃんと帰るので探さないでください。えっ?嘘だろ?」
■慌てて家を飛び出す凛
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【颯馬の家】
■息を切らして駆け込む
凛
「颯馬!颯馬大変だ!鈴がいなくなった!」
■部屋を見渡し颯馬がいない事に気づく
凛
「って…なんだい居ないのかい!んー…ここでは無いとすると…」
■夏樹の家に慌てて駆け込む凛
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【夏樹の家】
凛
「夏樹!鈴来てない?書き置きだけ残していなくなっちまったんだよ!」
■部屋を見渡し夏樹がいない事に気づく
凛
「って…なんだい、夏樹もいないのかい!
もう!どいつもこいつも物騒だねー。出かける時ぐらい鍵閉めていきなよ!
はぁー。
もう外も暗くなるのに鈴のやついったいどこ行っちまったんだよ…」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【山の中~鈴】
鈴
「うわー。思ったより遅くなっちゃった。もう外暗くなってきたし、凛もきっと心配してるよね…あー、今帰ったら怒られるかなー
凛、怒ると怖いんだよなー」
■お腹の音が鳴って
鈴
「お腹空いたー。そろそろ凛がご飯作ってくれてる頃だよなー。
凛のおいしいご飯食べたいなー…怒られるのは怖いけど…でも凛のおいしいご飯食べたいし…
んー…
よし!やっぱり怒られても良いから
頑張って早く帰ろう!
確か…そうだ!こっちから来た気がする…とにかく早く帰らないと…
ん?あれ?待って…来る時こんな所通ったっけ?
あれ…ここ…どこ?」
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【山の中~凛】
■鈴を探しに山に来た凛
凛
「鈴ー??どこなんだい?頼むから…いるなら返事をしておくれ?鈴ー??」
■鈴の声は聞こえない
凛
「もう!いったいどこ行っちまったんだよー!」
■草がこすれる様な物音がして
凛
「今の音…もしかして鈴??」
■慌てて走り出し、木の根っこにつまづく
凛
「うわっ!
痛たたたー。
あー。なんだい木の根っこかい…暗くてよく見えないからつまづいちまったんだね。
はっ!まさか鈴のやつ…ケガでもして動けなくなってるんじゃ…」
■慌てて立ち上がろうとして足首に激痛が走る
凛
「!?
うわっ…足首ひねっちまったのか…こんな時にっ…
早く鈴を探しに行かないといけないのにいったいなにやってんだろ私…」
■大きくためいきをつく
凛
「神様っていうのはほんとにいじわるだねー…
父様や母様だけでなく…愛しい鈴までも私から奪って行こうというのかい…」
凛(心の声)
『鈴…
どこにいるんだい…
せめて…せめて無事でいておくれ…』
凛
「鈴ー!!!
鈴ー!!!!!!!!!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
場面転換
【山の中︰鈴】
鈴
「はぁー
ここどこなんだろう?来た時こんな道通ったっけ?
もうずいぶんと歩いてる気がするのに全然着かない
早くお家に帰りたいのに…
はぁー、怒られても良いから今すぐ凛に会いたい…
凛の手料理食べたいなー
凛…
凛…」
SE:遠くで微かになっている護り鈴の音
■凛の鈴の音が山中に響き渡る
■鈴のもとに護り鈴の音が届く
鈴
「えっ?今のなんの音?」
SE:さっきよりも少しだけ大きく聞こえてくる鈴の音
鈴
「これは……鈴の…音?なんでだろうすごく懐かしい…この音…どっかで聞いた事がある気が…
んー…」
■過去の記憶を思い出す鈴
鈴
「あっ!わかった…これ!凛の護り鈴の音だ!でもこの音…どっから聞こえるんだろう…」
■目を閉じて耳を澄ませ護り鈴の音を聞く
SE:さっきより大きく断続的に鳴っている護り鈴の音
鈴
「こっちだ!この音が聞こえるって事は、きっと凛になにかあったんだ!」
鈴(心の声)
『 凛…今すぐ行くから!お願い!お願いだから無事でいて…』
■鈴の音に導かれる様に進んでいく
鈴
「音はこっちからのはずなんだけど…」
SE:突然大きくなる護り鈴の音
鈴
「鈴の音が大きくなった。この近くって事?りんー?りんー?お願い!いるなら返事して?りんー!!!!」
凛
「ん?今の…鈴の声?鈴?鈴ー!!!!」
■凛をみつけて
鈴
「凛!いたっ!凛、大丈夫?そんな所に座りこんでどうしたの?なにかあったの?」
凛
「鈴!お前どこ行ってたんだい!こんな遅くまで全く…心配したんだよ?」
鈴
「あー無事で良かった。心配かけてごめんね?でももう暗いし、お説教はお家に帰ってからにしてね?早く帰ろう?お腹空いたー。
って…凛!着物が汚れてる。一体どうしたの?」
凛
「あー…なんか木の根っこにつまづいちまってさ…でも大した事な…いった…」
鈴
「凛!大丈夫?」
凛
「ははっ…参ったねー。こんな…情けない…」
鈴
「足、くじいたんだね?私のこと…探しに来たからだよね…
こんなケガまでさせて…ほんとにごめんね、凛…」
凛
「いいんだ。いいんだよー…もうそんな事どうだって良いんだよ!
鈴がこうやって無事でいてくれたからそれだけで良いんだ。ケガしてどこかで気でも失って倒れてるんじゃないかって今の今まで生きた心地がしなかった……だから…鈴?もっとそばに来て抱きしめさせてくれるかい?」
鈴
「うん…」
■凛、鈴を抱きしめて
凛
「本当に…本当に無事で良かった…」
鈴
「凛…心配かけてごめん…ケガまでさせちゃって本当にごめんね…ごめん…ごめんね…」
凛
「なに泣いてんだい全く…もうごめんは聞き飽きたよ。こうやって無事でいてくれたんだからそれで良い。鈴、ケガは無いかい?」
鈴
「私は全然平気だよっ。ケガしてるのは凛の方でしょ?」
凛
「なぁにこんなのケガのうちに入らないさ…少し休めば歩けるよ。それにしても…よくここがわかったねー。この山、結構広いだろうに…」
鈴
「凛の鈴の音が聞こえたから」
凛
「鈴の音?鈴…あーもしかしてこれの事かい?」
鈴
「そう!護り鈴。その音がね…聞こえたの!」
凛
「そうだったのかい…本当に不思議な鈴なんだねー。私にはなーんの音も聞こえ無かったのに…
普段は音が鳴らないけど、持っている人の身に危険が迫った時だけ音が鳴る鈴…だったっけか?確か?」
鈴
「そう。その鈴を持っている人に危険が迫った時、初めて音を鳴らす。そしてその人を大切に思う人にだけ、その音が聞こえるんだって…」
凛
「へぇー。そうなのかい。そこまでは知らなかった…」
鈴
「帰り道が分からなくなって…不安で…
凛に会いたいって思ったの。そしたら鈴の音が聞こえて…鈴の音を追ってきたら凛を見つけた。凛、それ、まだ持っててくれたんだね。もうずいぶん前の物だよね?」
凛
「持ってるに決まってるだろ?私の宝物さ」
鈴
「凛…
あっ!そうだ!私、凛に怒ってるんだからね?」
凛
「なんだい急に藪から棒に」
鈴
「なんで教えてくれなかったの?凛と私が血が繋がってない姉妹だって」
凛
「それ…なんで?」
鈴
「母様がくれたお守りの中に手紙が入ってたの…私を産んだ母さんとの手紙」
凛
「もう!お守りの中身はあれほど開けるなって!」
鈴(被せて)
「だって気になっちゃったんだもん!
凛、私になにか隠してるの見えみえだし…
ずっと元気無かったし…ねえ?なんで言ってくれなかったの?」
凛
「血が繋がってるとか繋がってないとかってそんなに大事な事かねー」
鈴
「大切な事でしょ?私、凛に散々迷惑かけてきた…
わがままもたくさん言ってきた…
血が繋がってないなんて…手紙読むまで全く知らなかった…」
凛
「どうせ鈴の事だ。
最初から血が繋がって無いって知ってたら、たくさん遠慮しただろ?」
鈴
「そっ、それは…んー…たぶん」
凛
「だから、言わなかったんだよ」
鈴
「でも…」
凛
「父様はお医者様。母様もその手伝い。たくさんの人の命を救う尊い仕事。家にいないのは当たり前。仕方の無い事。だから…寂しいなんて思っちゃいけない」
鈴
「えっ?」
凛
「わかってはいた。どうにも仕様の無い事…でもどうしたってあの家で一人過ごすのはどうしようもなく寂しくて…初めて父様と母様にわがままを言ったんだ…」
鈴
「わがまま?凛が?いったいどんなわがまま言ったの?」
凛
「妹が欲しいって」
鈴
「えっ?」
凛
「二人ともとても悲しそうな困った顔をしててさ…あー言ってはいけない事を言ったんだなって気づいて…あわてて冗談だーなんてごまかしたんだけどさ…でもどうしたってやっぱり寂しかったんだよなー…
それからしばらく経って母様が抱いて連れてきたのが…鈴…あんただよ」
鈴
「私?」
凛
「母様が亡くなる前、鈴には内緒で大事な話があるって呼ばれて、初めて鈴とは血が繋がって無いって聞かされた…驚いたなー」
鈴
「凛…」
凛
「今、よーく考えてみりゃわかる事なんだ。母様のお腹…ちっとも大きくなってなかった。だけどねー。驚きはしたけど。なんにも鈴への思いは変わらなかったなー」
鈴
「えっ?血が繋がってないのに?」
凛
「ああ。だって…鈴は鈴だろ?大切な私の妹。血が繋がってようが無かろうが私にはそんなこと、本当にどうでも良いんだよ」
鈴
「凛…」
凛
「鈴は覚えてないかも知れないけど…鈴、なかなか私になついてくれなくてねー。
良い子ではあったけど…泣かないし、笑わないし…どこかいつも壁があって、全くと言っていいほど感情が見えなかった」
鈴
「えー。そうだったかなー」
凛
「そうだったんだよー。
そんな鈴が初めて、この護り鈴をくれた…
私の事が大切だから私を護ってくれる様にって…
それに、初めて鈴が私の名前を呼んでくれた…
その時さ…心の中にあったかい何かが広がるのを感じた…
私はもう一人ぼっちじゃないんだって…そう思った時嬉しくて涙が出たんだよ」
鈴
「凛…」
凛
「長い間誰にも言えなかった、どうにも埋まらなかった寂しさを…鈴が、埋めてくれたんだ…
だから何があっても鈴は必ず私が守るって、あの時、そう決めたんだよ」
鈴
「私、なにもしてないよ?むしろ凛には心配とか迷惑ばかりかけてるよ?」
凛
「鈴に迷惑なんてかけられた覚え私はないよ?
心配は、鈴が大切だから私が勝手にしてるんだよ」
鈴
「凛…」
凛
「喧嘩して…仲直りして…思ってる事、言いたい事たくさん言い合って…
はじめて、ありのままの自分でいられた。
良い子の私じゃなくても、鈴は好きだって言ってくれた
それが、本当にたまらなく嬉しかったんだよ
寂しくてぽっかり空いた心の穴を、鈴が埋めてくれたんだ…鈴の存在に、私は救われたんだよ
だから血が繋がってるとか繋がってないとかそんな事…私にとっては本当にどうでも良いんだ」
鈴
「凛…」
凛
「鈴?私の妹になってくれてありがとうな」
鈴
「凛。私こそ、私のお姉ちゃんになってくれてありがとう。
凛はいっつもいろんな事自分一人で抱えこんで私を護ろうとしてくれる…それは嬉しいよ?嬉しいけど…やっぱり寂しい…
私だって凛の為になにかしたい!凛が護りたいって思ってくれる様に…私だって凛の事護れるもん!」
凛
「鈴。そういえば…この山に…いったい何をしにきたんだい?」
鈴
「凛、嘘つくの下手だよね」
凛
「え?」
鈴
「凛、ずっと元気なかったから…
私と血の繋がらない姉妹だってあいつらがからかってきて、それに今まで見たことの無いぐらいに激しく凛が怒ったあの日から、なんか明らかに私に何か隠してた…」
凛
「そうだったかなー?」
鈴
「気になって、お守りの中に手紙見つけて、読んで色々考えてた、思い出してた…
お母様が亡くなった時も…お父様が亡くなった時も、凛は最後まで嘘ついて二人は大丈夫!絶対治るんだって言ってた。自分は部屋のはしっこで声押し殺して毎晩泣いてたくせに…」
凛
「!?し、知ってたのかい…」
鈴
「私が手紙に気づかなかったら、ずっと黙ってるつもりだったんでしょ?」
凛
「それは…」
鈴
「いつもいつも凛は私に隠し事する!自分の気持ち押し殺して、私の事ばっかり…
本当の姉妹じゃないから…血が繋がってないからなのかなって思ったら…
すごく、悲しくなった…」
凛
「別にそういう理由(わけ)じゃ…」
鈴
「でも!悲しいを通り越したら無性に腹がたってきた!姉の前に親友でいたい…
そう言ったのは凛なのに…なんにも頼ってくれない!全部、いつも自分一人で抱え込んでる!」
凛
「鈴…」
鈴
「凛が、私を護りたいって思ってくれる様に、私だって、凛の事護りたいし、なにか凛の役に立ちたかったの…凛に幸せになって欲しいの!
そう思ったらここに来てた。
はい!」
凛
「ん?」
鈴
「これ、凛にあげる」
凛
「ん?これは…」
鈴
「私が縫ったの」
凛
「かわいい巾着だねー。この立派な刺繡もかい?もしかして…最近やたらと指をケガしてたのは」
鈴
「凛みたいに…私器用じゃないもん!」
凛
「そうだったのかい。私の好きなりんどうの花だ。ケガしながら、心を込めて一針一針縫ってくれたんだね…ありがとう」
鈴
「中身…開けて?」
凛
「ん?何か入ってるのかい?」
鈴
「良いから…早く、開けて?」
凛
「なんだいなんだい、そんな急かさなくても開けるよー。んーと…これは…」
鈴
「護り鈴。この山の上の神社でしか買えないの。
私があげたやつ、もうずいぶん古くなってたでしょ?だから新しいのあげる」
凛
「なんで二つなんだい?」
鈴
「一つは凛ので、もう一つは…いつか凛に大切な人が出来たら、その人に渡して?」
凛
「鈴…」
鈴
「私も実はお揃いで買っちゃった。神社の住職さんにね、聞いたの。この護り鈴、すずらんが彫ってあるでしょ?」
凛
「あー。そうだね」
鈴
「なんですずらんなのか、わかる?」
凛
「いや…」
鈴
「すずらんはね。贈った人にも贈られた人にも幸せが訪れる花なんだって。
だから幸せになって欲しいって思う人に心を込めてこの鈴を贈ると、その思いが鈴に宿って、大切な人を護ってくれるんだって。
凛はいつも私の事優先で自分の事は後回しでさ…
愛されてるなって…思うよ?幸せだなって思うよ?
でも私は…自分も幸せになりたいし、凛にも!幸せになって欲しいの!自分一人幸せになったって意味が無いの!凛と、幸せになりたいの!
だからこれは私の決意の証?みたいなも
の!」
凛
「鈴…ありがとう。ありがとうね…」
鈴
「受け取ってくれる?」
凛
「ああ。ああ。当たり前じゃないか。
いつの間にこんなに大きくなっていたんだろうねー。私が護ってあげないとって、一方的に私が護ってるってずーっと思っていたのに…
いつの間にか私は鈴に、守られてもいたんだねー」
鈴
「凛は親友でもあり、姉でもあり…母親代わりもしてくれた…ずっと護ってくれた…
本当にありがとう。
でもね…私一方的に守られてるだけなのは嫌!
だから…これからは、私も凛を護るよ。ううん!護らせて!私が護りたいの!
これから凛に降りかかる悲しみや苦しみの全てから、私は凛を護りたいの!」
凛
「なーんだ。なんだ。そうかいそうかい…
私はほんとに大馬鹿者だねー。
勝手に一人で不安になって…
そうかいそうかい…鈴はなんにも変わってやしない
あの頃のまんまじゃないか…
血の繋がりなんて関係無いって思いながら、その事を一番怖がって向き合う事から逃げてたのはむしろ私の方だったのか…
鈴、本当にありがとう。一生、大切にするよ」
鈴
「えへへー。どういたしまして」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
凛
「鈴もいつか…うちから旅立つ日が来るんだろうねー」
鈴
「うん。そうだねー。そりゃーきっといつかはねー。ねえ?寂しい?寂しい?」
凛
「当たり前だろ?でももし、鈴をちゃーんと幸せにしてくれると思った相手なら…その時は喜んで送り出すよ」
鈴
「まあ、まだまだ遠い遠いずーっと先の事だと思うけどね?」
凛
「さあ、どうだろうねー。恋の炎っていうのは点けようと思って点けるんじゃなくて、ある日突然に思いもよらぬ形で点いちまうものだからねー。思いを寄せてる人、実はもういるんじゃないのかい?」
鈴
「えっ?いや…それは…んー…どうだろう」
凛
(笑)
「ほんとに嘘がつけない子だねー全く。まあ、いつでも送り出せる様に、心の準備だけはしておくよ」
鈴
「ねえ?凛は?思いを寄せてる人いないの?」
凛
「さぁ、どうだろうねー」
鈴
「そうやっていっつもはぐらかすー」
凛
「そうだねー。鈴がもう少し大人になって大切な誰かが出来たら…その時教えてあげるよ」
鈴
「約束だからね?絶対絶対、約束だからね?」
凛
「はいはい」
■鈴、くしゃみをする
凛
「あー。大丈夫かい?早く帰らないと風邪ひいちまうねー」
鈴
「うん。帰ろう一緒に。肩、貸すね。立てそう?」
凛
「うん。ありがとう。よいしょっと」
鈴
「痛いよね?ごめん。」
凛
「ごめんはもう聞き飽きたってさっきも言ったろ?ほら、帰るよ?」
鈴
「うん。私の肩、つかまって。ゆっくりで良いからね。ん?あれって…」
凛
「どうしたんだい?」
鈴
「凛?どうやら凛の事を大切に思ってるのは、私一人だけじゃないみたい」
凛
「えっ?それってどういう…」
■二人を心配してやってくる夏樹と颯馬が遠くに見えて
凛
「えっ?颯馬と…夏樹も?あいつらなんでここに…
あっ!そういえば私、慌てて書き置きだけ残したんだった…それでわざわざ探しに来てくれたのか…行先も書かなかったのに…」
鈴
「ずーっと探してくれてたのかなー。二人にも謝らないとなー」
■嬉しさがこみ上げる凛
■遠くにいる夏樹と颯馬に向かって大声で叫ぶ鈴
鈴
「夏樹ー!颯馬ー!心配かけてごめんねー!
凛がケガしちゃったのー!お願い!お家に帰るの手伝ってー!」
■鈴の声に気づき近づいてくる夏樹と颯馬
鈴
「ねえ、凛」
凛
「ん?なんだい?」
鈴
「凛?」
凛
「はいよ」
鈴
「凛!だーいすき」
凛
「あーもう全くこの子はなんてかわいいんだいほんとに…」
鈴
「痛い痛いっ!もう!そんなに強く抱きしめられたら苦しいってば。夏樹も颯馬も笑ってないで早く助けてよー」
完
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