La Vie-ラヴィ-


「人物紹介」

死神︰超俺様なエリート死神

零︰死にたがっている人間。一人称は僕。

「配役表」

死神︰

零(ゼロ)︰(不問です)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「台本」


死神

(舌打ち)

「てめぇら下等種族ごときが、俺様の手を煩わせやがって!

人間はなぁ、所詮最後は死ぬと決まって産まれて来る生き物なんだよ。

誰もその運命(さだめ)から逃れる事なんか出来ねぇの。その程度の生物なの。

恨むんならなぁ、人間なんてちっぽけで哀れなもんに生まれてきた、てめぇの運の無さを恨むんだな。

俺様のターゲットになった時点で、てめぇの死は絶対に覆ることの無い確定事項。

どうせ長く生きたところで大した価値もねぇくせに、死ぬ間際にみっともなく俺様に命乞いなんかしやがって…

散り際ぐらい、潔く砕け散れってんだよヴァーーーーカ!!!!!」


■馬鹿にするように高笑いしたあと、空中に浮かぶ液晶のデータを見る


SE:機械音


死神

「さぁて、次のターゲットはぁ…と。

どれどれ?

名前、シークレット

年齢、シークレット

性別、シークレット

死因、シークレット

命の期限、シークレット

ターゲットレベル…

SSS(トリプルエス)だぁ!?

この大人しそうに見えるガキがなんでこんな難易度高ぇんだ?

よっぽどの訳アリって事か?

いや、それよりもデータがすべてシークレットって、どうやって命を運びゃ良いんだよ…

まさか四六時中こいつに貼り付いてろってことか!?

なんてめんどくせぇターゲットだよ…

まぁ良い、とりあえずひとまずは偵察と行くか。

どうせ俺様に刈り取れない命など、この世に存在しないのだからな」





「la vie~ラ・ヴィ~」

―病院のような建物の一室


死神

「(さぁて、データによるとここのはずなんだが…ここは、病院…か?

 それにしちゃなんだか、異様な空気を感じるのは気の…せいか?

生体反応的にはこの部屋のはずなんだが…人の気配なんかしねぇんだが)」


「誰?」


死神

「(!?

 まだ気配は解放していなかったというのに、まさか俺様の気を読んだというのか?)」


「気を読むまでも無いよ。すごいオーラだったもん」


死神

「お前、なんで。まさか、俺様の心を読んだのか?」


「読んだっていうか、勝手に流れ込んできたんだ、頭に」


死神

「頭に流れ込む…」


「そんなに驚くことじゃないよ。人はね、何かを失ったら補完する生命体なんだ。

 僕は視力を失ったから、他の感覚が異常に発達した。ただそれだけの事だよ」


死神

「お前、目が見えねぇのか」


「うん。でももう慣れたし、別に困ってない。僕がこの部屋から出ることなんてほとんど無いしね」


死神

「お前はずっとここにいるのか?」


「そう。だって僕の世界は、すべてここにあるから」


死神

「すべて…」


「あなたは、人では無いよね?」


死神

「何故そう思う」


「だって僕に対して恐れや、哀れみや、優越感や、そういった感情を微塵も感じないから」


死神

「…なるほど」


「僕は…一応生物学上は人間…なのかな。ここでは零(ぜろ)って呼ばれてる」


死神

「零(ぜろ)…」


「あなたは、天使?それとも死神?」


死神

「それを知ってどうする」


「別に。ただ何となく…

まっ、天使だとしても、死神だとしても僕にはどっちだって同じなんだけどね」


死神

「同じ…だと?」


「同じだよ。だってどちらも命を終わらせる存在なんだから」


死神

「!?」


「まぁ、僕の望みを叶えてくれるならどっちでもいいや。

ねぇ、さっさと持ってってよ、僕の命」


死神

「…お前何言ってるんだ?」


「そのままの意味だけど」


死神

「怖く無いのか?」


「何が?ああ、死ぬことが?」


死神

「たいていの人間は、自分がしてきた数々の悪事を棚にあげ、他の命を犠牲にしてでも

 己だけはなんとか生にしがみ付こうと最後の1秒まで抗って、俺様に縋って命を乞う。

 それが、人間ていうもんなんじゃねぇのか?」


「ふっ。そうだね。

 それは、自らの命が、ちゃんと自分のものだと絶対的に信じられるからだよ」


死神

「おまえは、違うのか?」


「僕は…僕じゃない誰かの意思で、ただこうやって生かされているだけだから。

僕の意思なんて関係ない。

僕の命は僕の命であって、僕の命じゃない。この瞳が永遠に光を失った、あの時からね…」


死神

「?

それはいったいどういう意味だ?」


「あなたの質問に答える前に先に教えてよ、あなたは誰?」


死神

「…俺様は、死神だ」


「そう、やっぱり死神さんか。なんかなんとなくね、そんな気がしてた」


死神

「お前は…もしかして死にたいのか?」


「…どうだろうね。

死にたいというよりも、そうだな。

これ以上生かされていたく無いって言った方が、正しいのかな」


死神

「生かされていたく無い…」


「ねぇ、死神さん。僕はあと何日で死ねるの?」


死神

「それをお前に教えてやる義理はねぇ」


「へぇ。死神さんでもわからない事があるんだね。

なぁんだ。神様ってもっとなんでも知ってるもんだと思ってた」


死神

「俺様だってなぁ、こんな事は初めてだ。

ターゲットが決まったら、いつもはそいつのデータが用意される。

なのに、お前の場合は名前や年齢や性別はおろか、死ぬ日時や場所、原因でさえ

、すべてが謎だった」


「ふーん。そうなんだ、ざ~んねん。

 待てよ…そうか!だったらさぁ、良い方法があるよ」


死神さん

「ほお。叶えてやるとは約束しないが、一応試しに言ってみろ」


「死神さんがさ、僕を殺しちゃえば良いんだよ。

そしたらいつ来るかわからない僕の死を待ってる必要も無いでしょ?

最も手っ取り早くて、簡単で確実な方法じゃない?

ねぇ、そうしなよ!ほら、早く」


死神

「なにか勘違いしている様だが、俺様はただ、体から弾き出された命を迷うことなく冥界に連れていくだけで直接手を下している訳ではない。

死神はそんな野蛮なことはしない」


「ふーん、そっか。神様なんて言うからもっと生き死にを自由に操れるのかと思ってた。なんだよ、ただの運び屋かダッサ…」


死神

「おい人間!

 口の聞き方には気をつけろ!俺様の流儀に反するからやらねぇだけで、なにも命を奪えない訳じゃねぇんだぞ!

てめぇのそんな細い首なんて俺様の手にかかればなぁ…!」


(首を締められながら)

「ゔっ。

ふふっ。いいねぇ。

その調子だよ。ほら、もっと力をこめて…そのまま僕を殺してよ。

ほら、もっと!もっと強くこの首を締めるんだ、さぁ。さぁ!」


死神

「…やめた」


■死神の手が緩んだ途端、零、その場で盛大に咳き込む


「どうしたの。なんでやめちゃうの?

やっぱり口だけで本当は僕を殺すことなんて出来ないんでしょ?死神さんも大したことないね~」


死神

「ちょっと軽く首締められただけで咳き込んでる癖に偉そうにほざきやがって。

俺様を挑発して自分を殺させようとするなんて、人間ごときがずいぶんと小癪な真似してくれるじゃねぇか。

だいたいなんで俺様が、お前みたいな下等種族の望みを叶えなければならねぇんだ?あぁ?」


「崇高な死神が負け惜しみかい?随分情け無いなぁ」


死神

「ほぉ…。俺様に喧嘩を売るとは良い度胸じゃねぇか。

 抵抗もしねぇ死にたがりの人間の命を奪ったところでな、何も面白くなんかねぇんだよ」


「負け惜しみの次は言い訳かい?

死神も案外大したこと無いんだねぇ」


死神

「そうかそうか、お前はよっぽど俺様を怒らせたいらしいなぁ。

決めた。決めたぞ!

お前の望みなんて叶えてやるもんか!

むしろお前を、何がなんでも死ぬ瞬間まで生かして、最後の瞬間に死にたくないと俺様に縋りつかせてやる!」


「ふーん、あっそ。やりたきゃ勝手にやれば~?死神さんて、ほんと物好きだね」


死神

「勝手にほざいてろ!

いいか?

そのいけ好かねぇすかした顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら命乞いさせてやるからな、覚悟しておけよ?零(ぜろ)」


「いいよ。お手並み拝見と行こうじゃん。

それじゃぁこれからよろしくね、死神さん」





死神

「零。お前はいつ来てもこの部屋にいるな」


「死神さんってそんなに暇なの?あれから毎日来てんじゃん」


死神

「お前はここから出る事は無いのか?」


「出る?なんのために?

僕はここで生まれた。

世界はここにしかない。今までも、これからもずっとね」


死神

「じゃあお前は人間以外の生き物の存在も、ここ以外の景色も知らねぇのか…」


「人間以外の生命体?景色?なにそれ?そんなの聞いた事も見た事も無いよ」


死神

「マジか…

なぁ、零。

世界はすげぇ広いんだぞ?

お前はこんな冷たい壁に囲まれた狭い空間だけが全てだと思ってるみたいだがな。

この壁の向こうにはお前以外にもたくさんの人間がいる。いや、人間だけじゃない。

動物がいる。森や、海もある」


「あっそ」


死神

「お前はここに自分の世界がすべてあると思い込んでるようだがな。

いや、あるいは一方的に思い込まされているのかもしれないが。

世界はな、お前が思っているより、もっともっともーっととてつもなく広くてでっかいんだ。

つまりな、お前はまだまだ世界のなーんにも知らねぇんだよ」


「ふーん。だからなんだっていうんだい?」


死神

「知りたくないか?自分で、確かめたくないか?

もっと広い世界を見たくは無いのか?」


「ふっ。別に興味無いね。

どうせ死神さんの作り話だろ?」


死神

「疑うんなら自分で確かめて見ると良い」


「真実かなんて確かめ様も無いよ。

だってそうだろ?

僕の目はもうとっくに見えないんだから」


死神

「お前、ほんとに人間か?プログラムされたAIかなんかじゃねぇのか?冷めてんなぁ」


「なんとでも言えば。ねぇ、もう終わり?」


死神

「なにも目だけが確かめる方法じゃないだろ」


「僕はここを出られない。一体どうやって確かめろっていうんだよ」


死神

「そんなのいくらでもあるじゃねぇか」


「あー、ちょっと待って。

はい、はい。わかりました。

呼ばれたから、僕もう行くね。

それじゃ」


死神

「おい!零。話はまだ終わってねぇぞ」


「僕はそんなの信じない。だからもうこの話は終わりだ」


死神

「信じないじゃない。信じるわけには行かない。だろ?」


「さぁね。

ああ、そうだ。

僕の事殺したくなったらいつでも殺しに来てくれて良いんだからね?

ここはかなり精密で精巧なセキュリティで守られてるみたいだけど。

どうせ死神さんにはそんなの関係ない。

あなたは物体をすり抜けられるだろうし、

他の人には姿は見えなくて声も聞こえない。違う?」


死神

「ほんと可愛げねぇガキだな、お前」


「ありがとう。それは褒め言葉として受け取っておくよ。今度来る時にはもうちょっと楽しませてよ。じゃあね、死神さん」





死神

「よぉ、零!生きてっかー?」


「これが死んでる様に見える?

残念ながらまだ生きてるよ。

ああ、それとも何?

もしかして僕を殺す気になった?」


死神

「いや。全然」


「あっそ」


死神

「なぁ零。お前は目以外は発達しているんだったよなぁ」


「見えていた頃の事なんてもうとうに忘れたから、あくまでも推測でしかないし、他に僕より優れた人はたくさんいるだろうけどね。

この前の検査では聴力とか嗅覚とか触覚のレベルが一般のそれを遥かに越えてるって、あいつらは大騒ぎしてたよ」


死神

「相変わらず可愛げのねぇ答え方しやがる。目以外の確かめる方法、例えばこんなのはどうだ?」


SE:波の音


「これは…聞いた事無い音だ」


死神

「波の音だ」


「波?」


死神

「ああ。この世界には至る所に大量の水が消える事無く留まっているところがある。規模や成分なんかによって池とか湖とか色々名前が変わるんだ。その中にな、海と呼ばれる場所があって、そこには波が発生する。

一定のリズムで水が引いたり、満ちたりするんだ」


「海の、波…」


死神

「そうだ。場所によって、青かったり、緑だったり色んな色に見えるんだ」


「なるほど、今度は聴覚にアプローチってわけだね」


死神

「そうだ。

お前、動物も知らないって言ってたよなぁ…じゃあ、こいつはどうだ?」


SE:犬の鳴き声


「!?

急にこんな大きな音出すなよ!びっくりするだろ!」


死神

「それはな、零。犬の鳴き声だ」


「い…ぬ?」


死神

「そう。動物の一種だな。

割と賢い割に、人間なんかによく飼われてる従順な下僕だ。さて、次はこいつだな」


SE:猫の鳴き声


「…?さっきとは違うね」


死神

「犬と比べたら穏やかだろ?そいつはな、猫の鳴き声だ」


「ねこ…」


死神

「そっ。犬と同じで人間なんかに飼われてやがる生き物だが、そうだなぁ…こいつらは割と自由気ままだから犬よりも人間を振り回し、遥かに上手く使いやがる」


「ねこ…」


死神

「そして、最後にこいつが…」


SE:鳥の鳴き声と翼を羽ばたかせる音


「…!?

これは…なにかの鳴き声?

あとなんか、バサッ、バサッて音がする」


死神

「鳥っていう生き物の声と、そいつが翼を羽ばたかせている音だ」


「とり…。

なぁ、つばさってなんだい?」


死神

「俺様にもついてるがな。

これで空に浮いてたり、飛んだりできるんだ」


「空を飛ぶ…」


死神

「人間にはねぇだろ?」


「うん。無いね」


死神

「零、俺様の翼、触ってみるか?」


「崇高な死神の翼を、僕なんて下等種族に触らせたりして良いのかい?」


死神

「それはもしかして嫌味か?」


「さぁねぇ。どう取るかはご自由に」


死神

「良いからグダグダ言ってねぇで手をのばせ」


「あ、後で文句言ったって聞かないからな」


死神

「俺様はそんなちぃせぇ器じゃねぇよ。

ほら、さっさと触れ」


■零、恐る恐る手をのばし、死神の翼に触れる


「!?

…あったかい。それに…硬い所と、ここはふわふわして柔らかいね。

これは…たぶん感触的に筋肉、かな?」


死神

「…手だけでよくそこまで分かるな」


「目が見えなくなってからは、この手がずっと僕の目みたいなものだからね」


死神

「なるほどなぁ。

なぁ、後にも先にも死神の翼を触った人間は零、てめぇぐらいだろうよきっと」


「なんで…」


死神

「ん?」


「なんで僕に自分の翼を触らせたの?

まさか僕の目が見えないから同情した?

死神でも同情なんてくだらない事するんだね」


死神

「同情?俺様が?そんな訳ねぇだろ」


「じゃあなんで?」


死神

「俺様はただ、この世界はここだけが全てでは無い。

てめぇはまだ何も知らないんだと、後悔させてやりてぇだけだ」


「後悔?」


死神

「ああ。どうやら後悔が残ると人間というやつは等しく生(せい)に縋り付きたくなるらしいからなぁ」


「後悔、ね…」


死神

「ああ、後悔だ。なぁ、零。さっき聞かせた動物の中でお前はどいつが一番好きだった?」


「選ぶことになんの意味があるの?」


死神

「意味があるかはわかんねぇけど。

まぁただの会話の1つだ。

もっと気楽に楽しもうぜ?」


「ふーん。どうしても選ばないといけないなら…そうだな。あの中なら…とり、かな」


死神

「それはなんでだ?」


「僕には無いものを持ってるから。かな」


死神

「翼。か…」


「それもあるけど…」


死神

「ん?」


「…自由な気がした。他の二匹より」


死神

「自由。か。お前は自由になりたいのか?」


「死神さん。自由ってなんだと思う?」


死神

「自由の定義か…」


「とりあえず僕は自由じゃないって事だけはわかってる」


死神

「まあ、確かにここには窓さえない」


「死神さんならもう気づいてるんじゃない?ここがどんな場所なのか。

無機質でどこか不気味なぐらい規則的で」


死神

「病院だろ?白衣着た人間がゴロゴロいる。

それにお前のようなガキもたくさん。お前、なにかの病気か?」


「病院か…。まあ、大ハズレ。では無いかな。

ある意味頭のおかしい連中の集まった病院だよ。」


死神

「…」


「毎日来てるならそのうちわかると思うよ。いずれこの場所の真実がね」


死神

「真実…」


「!?

うるさいなぁ。そんな怒鳴らなくたって今行くよ!

ああ、ごめん。やつらに呼ばれた。

じゃあ、僕行くね」


死神

「医者か?」


「死神さんと過ごす時間、僕嫌いじゃないよ。じゃあね」


死神

「おい!零…」





死神

「行っちまったか。

なあ零。

お前はいったい、何を抱えてるんだ」





「…死…神さん?」


死神

「ずいぶん調子悪そうだな?」


「なんか、身体が、重くてっ…」


死神

「無理して起き上がらないで良い。横になったままでいろ」


「今日は…何を持ってきたの?」


死神

「昨日は聴覚。耳だったろ?

だから今日は…」


「!?

冷たっ。えっ?何?」


死神

「俺の額だ」


「死神さんの、額」


死神

「今から俺の記憶をお前の脳内に直接送り込む。」


「記憶…」


死神

「簡単に言うと、スクリーンの無い映画みたいなそんな感覚だな」


「映画。」


死神

「じゃあ始めるぞ」


「これは…」


死神

「森だ。木がたくさんあって。あっ、鳥の声も聞こえるな」


「森と、鳥。やっぱり鳥って自由な感じするなぁ。飛んでる姿カッコイイや」


死神

「そ、そうか?」


「なんで死神さんが照れるの?」


死神

「いや、別になんでも良いだろ」


「これは…昨日聞いた波の音がする。ここは…海?」


死神

「そうだ。広いだろ?」


「うん。どこまでも広いね。あっ、今なんか跳ねたよ」


死神

「イルカだ。海にはな、すんげぇ種類の生き物がいるんだ」


「そうなんだ。あっ、どんどん景色が変わってくよ」


死神

「白いのが雲。その上に広がってるのが…空だ」


「これが空か。僕、空好きだなぁ。」


死神

「俺様もだ。空、良いよなぁ。

広くて青くて自由で」


「うん。死神さん、ありがとう。

空かぁ…。

できるなら自分の目で見て見たかったなぁ…僕の、この目…で…。

ゔっ…!?

あぁっ!」


死神

「零!零どうした?」


「あ”ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


死神

「零!おいしっかりしろ!零!」


死神M

零が頭を抱えながら暴れだした。

叫びながら全身が痙攣している。

どこからともなく白衣をきた人間達が入ってきて

暴れる零の腕に注射針でなにかを混入する。

すると1秒もしないうちに零は動かなくなった。

息はしている。

恐らく全身麻酔だろう。

大丈夫だ。零はまだ死なない。

それは俺が1番よく分かっているじゃないか。

だって俺に命を刈り取る合図は見えないし、

仲間も来ていないのだから…

なのに…

なんで俺はこんなにも、動揺しているのだろう…





「…んっ」


死神

「零?」


「…死…神…さん?」


死神

「気がついたか?」


「僕…思い出し…たんだ。

あいつらに…必要無いって抹消された…けど…。さっき…死神さんに見せてもらって…僕…海と…空…この目で…見た事…あったって」


死神

「えっ?」


「…必要なのは…この中身だけで…

心も思考も必要無い…から…

全部…消されたんだけど…でも…完全に…消えた訳…じゃ、無かった…」


死神

「零。無理に喋るな。恐らくお前が打たれたのは筋弛緩剤だ」


「思い…出せて…良かった。

死神さん、ありが…とう」


死神

「零。」


「…僕、今日はお話...上手に…出来ない…かも」


死神

「じゃあ、今日は俺が話しても良いか?」


「うん…良い…よ」


死神

「ここの真実に辿り着いた。あいつらは医者じゃない。ってか、全部ペラペラ喋ってたよ。

ここは…クローン研究所。お前はある財閥の子供のクローンなんだな」


「…」


死神

「ここにはお前以外にもたくさんの子供達がいた。みんな、お前と同じその服を着ていた。そして、零と呼ばれていた。他人の臓器を移植するには副作用と激しい合併症が伴う。最悪の場合、拒絶反応が起こり死に至る。だが、クローンなら遺伝子学上は同一。拒絶反応を起こす確率は、限りなく0に近い。つまりお前達は…」


「スペア…だよ。本物が…壊れた時の…代替品」


死神

「…」


「だから必要無いんだ…僕はただの部品だから…意志も、感情も…記憶も…全部必要無い。

あいつらにとっては…無駄な…だけ」


死神

「…零」


「死神さん…僕はね…倫理上...本当は…存在しちゃいけないんだ。

でも僕は…いつも…監視されてて…

自ら…命を絶つことは…出来ない…し、

僕が死んだら...助からない…命があるのは…申し訳…なくて。

だって…本物の僕は…

きっと…僕の存在なんて…知りもしない。

だから…ね…いつ死んでも…構わないって…思ってた。

でも…死神さんと…お話…出来なくなっちゃうのは…嫌だなぁ。」


死神

「零。大丈夫だ。お前はまだ死なない!

筋弛緩剤で身体に力が入らなくて上手く喋れないだけだ。安心しろ。お前はまだ生きてる。」


「死神さんに…生きてるって言われるの…なんか…変な感じだ…。

許されない…命だって…分かっ…てるんだ。

こんな事…思っちゃ…いけないって…わかっ…てるのに。

僕ね、死神さんに出会って…気づいちゃったんだ。

僕が…死ぬのが怖く無かったのは…別に…僕の心が…強かったからじゃない。

今まで…ちゃんと…生きていなかった…だけ、なんだって。

死ぬことを…怖いと思うほど…命に…真剣に…向き合って…無かっただけ…だったから…だって。

本当は…ずっと、ずっと…強がってた。

ひとりで…良いって。

ずっと…ここに…いたいって。

じゃないとね…怖くて…怖くて…たまらなかったんだ。

だから…早く死にたい…って…思った。

でもね…死神さん…僕、ひとりぼっちは…寂しかったよ。

本当はね、まだ…死にたく無い。……死にたく…ないんだ…」


死神

「零…」


「死ぬの…怖いなぁ…

怖いなぁ…死ぬの。

死にたく…無いよ!

ねぇ?死神さん。神様…なんでしょ?

だったらさ…助けてよ…

ねぇ!僕の命…助けてよ!」


死神

「それは…」


「わかっ…てるよ…馬鹿な事…言っ…た。ごめん…ね」


死神

「大丈夫だ。零!

まだ、まだ大丈夫だ!

お前はまだ死なない!

生きろ!生きろ!!!!!」


死神M

気づいたら、俺は叫びながら零を抱きしめていた。

必死にひとりで強がっていたその小さな震える身体を、力いっぱい抱きしめていた。

俺自身が死神な事も忘れて

零が眠りにつくまでただひたすら生きろと、そう叫び続けていた。





零M

今日は久しぶりに身体が軽くて

いつもより目覚めが良かった

昨日の事がまるで夢みたいだった

死神さんはいつ来るんだろう

わくわくしながら待っていた


死神

「はっ?待ってくれよ!

これはどういう事だよ?

昨日はまだシークレットだったじゃねぇかよ!!!!!

零!そいつから逃げろ!

零~!!!!!」


零M

ふと懐かしい気配がして

僕は立ち上がって近づいた。

すると、お腹に違和感を感じて、なんとも言えない鋭い痛みが…身体中に、走った。


「!?

…君は。」


零M

自分の心臓の音がいつもより大きく響いている。

脚に力が入らなくなり立っていられなくなったところに、死神さんの気配を感じた


死神

「零!!!!!」


零M

なんでだろう。

僕はその時、ああ、これこそが本当に最後のお迎えなんだと、なんとなく…。

そう、なんとなく、分かってしまったんだ。


死神

「零!零!

おい!しっかりしろ!」


「死…神…さん。大丈夫。聞こえてるよ。

ねぇ、僕、死ぬんだ…ね」


死神

「!?」


「ほんと…嘘がつけないんだから…」


死神

「悪りぃ」


「さっきまであった気配が...しない。

血の匂いが…する。

自分で…死んじゃったの?

あの子が…悪い訳じゃないのに…」


死神

「自分を刺したやつの事を気遣うなんて、お前どんだけお人好しなんだよ」


「僕…あの子…知ってたよ。

思い…出したんだ。本物の…僕。

僕の…始まり。

小さい時…良く遊んだんだよ。すっごく優しくて…でも、身体がとても弱くてね。

さっきもね…何度も何度も泣きながら、僕のせいでごめんねって言ってた。あの子が悪い訳じゃ…無いのにね」


死神

「悪くない。誰も悪くなんかねぇよ」


「死神さんは…優しいね」


死神

「俺は、優しくなんか…」


「もっと…死神さんと…いっぱいお話したかったなぁ…。

あとね、海とか空とか…鳥とか…。

死神さんとね、色んな物…見る…は、出来ないから。感じたかった…。

ねぇ、これが…後悔って…やつなのかな?」


死神

「そう…だな」


「あの子の命を終わらせちゃいけないってなんとか…生きてた…けど…あの子が死んじゃったのなら…僕の役目は…終わりだもん…ね。

そっか。

僕…最後に…後悔しながら…死ねるんだ。本物の…人…みたいだな」


死神

「零。お前は出会った時から、ずっと人だ!誰よりも人間だった!

許された命だから、お前は生まれて、俺がその命を人としてこれから連れていくんだ!」


「そっか。

僕…ちゃんと…生きてたんだね…。

人間…だったんだね。

人間だから…死神さんに会えたのか…。

僕、生まれてきて…良かったぁ」


死神

「零…お前ってやつはほんとに…」


「死神さん…死ぬのはね…とっても怖い…けどね…。

死神さんが…最後に連れていってくれるなら

…死ぬのも…そんなに悪くないかもしれないって思う…よ…。

ありがとう…」


死神

「命を刈り取る瞬間に感謝されたのは、生まれてはじめてだよ」


「だって…教えてくれた。

死神さんは…命を奪ってない。

いくつもの命を…迷わないように…運んであげたんでしょ?

最後が…ひとりぼっちじゃないって…こんなにも…安心…するんだなぁって…。」


死神

「零。もう良い!

もう喋るな!

もう。

もうこれ以上苦しまなくて良いんだ。

よく、ここまでひとりで闘ってきたな、あとは…ゆっくり休め」


「ありがとう。

もし叶うなら…死神さんと…お友達になりたかったなぁ…。

それでね…ケンカもするんだけど…結局仲直りして…たくさん死神さんにね…大好きとありがとうを…言うんだ。」


死神

「…あぁ、なろうな。友達に、絶対なろうな!」


「…最後に…優しくてあったかい嘘をありがとう…。

死神さんの愛だと思って…大事に持っていくね。

またね…僕の親友。死神…さん」


死神

「零?零。零ぉぉぉ!!!!!!!

なんだよ!なんでだよ!

なんでこんな良いやつが殺されなきゃなんねぇんだよ!!!!

こいつを救えねぇ神様なんてクソくらえだ!!!!!

こいつを救えねぇ俺は…もっともっとクソ野郎だ…。

なぁ零、俺だって…

俺だってはじめてだったんだ。

こんなに興味を持った人間も、ありがとうなんて言われたのも。

命を刈り取りたくないって思ったのも、親友になりたいって思っちまったのも…

零…俺の…親友。

誰がなんと言おうが、俺にとってはお前が1番本物で、最高の人間だったよ。

せめて次、もしも生まれ変わる事があるなら、お前がお前の意思で歩める命に、戻ってこいよ?

今は…とりあえず。

ゆっくり休め。

また…な。零。」





SE:爆発音


死神M

零がいた研究所は爆発した。

生き残った研究員が自爆スイッチを押しやがった。

そしてその研究員の奴は家族を人質にとられていた。

なんとも胸くそ悪りぃ事件だった。

だが、もっと胸くそ悪りぃのはこの事件が一切表には出なかった事だ。

結局零達は、研究所と共に存在さえも知られずにこの世から抹消された。

金と欲望は、こんなにも人を狂わせちまうのか。

無理やり生み出された命。

何故俺は知っちまったのか。

これもなにかの因果なのだろうか。

それとも運命だとでも言うのだろうか。

その存在を知って貰う事さえ出来ず、エゴの塊で身勝手に生み出され、そして散っていった奴らへのせめてもの手向けとして、

毎年、零と別れた日に、ここに来て花を供えると決めた。

俺様はあの日、神に喧嘩を売った。

その罰が人間として、この一連の事件の記憶を持ち続けたまま輪廻転生を繰り返せというものだった。

死神の俺様からしたら

人間なんてものは実にずるくて

せせこましくて弱くてすーぐ死んじまうし面倒くさい!!!!!

雁字搦めに縛られて窮屈で仕方ねぇ!!!!!

最悪な生き物だ。

けど…

けど、わかったんだ。

死神の時は気づかなかった。

いや、気付こうともしていなかった。

人というものは、

命というものは、みな…とても一生懸命だった。

一生懸命にもがいて、悩んで苦しんで。

それでも必死に…今を、命を、生きていた。

何万回かの輪廻転生を繰り返して迎えた今日…ようやく気づいた。


死神

「なぁ、零。人間も、悪くねぇなぁ。

けど…」


「けど」


死神

「!?」


「親友がそばにいたらもっと最高なのになぁ。でしょ?」


死神

「!?

…なんでお前がここに?いきなり出てきてくだらねぇ事ほざきやがって」


「なんだよぉ。ほんとは嬉しいくせにぃ」


死神

「誰が…」


(かぶせて)

「僕は嬉しいし会いたかったよ。

人間になってるのは、正直びっくりしたけど」


死神

「…お、遅せぇんだよ!どんだけ待たせんだよ!」


「…贖罪(しょくざい)を終えてきた。

やっぱり罪は罪だから。

ちゃんと綺麗になった僕で、もう一度君に会いたかったんだ」


死神

「…(お好きな言葉をどうぞ)」


「ん?何?なんて言ったの?」


死神

「なんでもねぇ」


「なんだよ!教えろよー!」


死神

「絶対教えねぇ。そもそもなんでここがわかったんだよ」


「贖罪(しょくざい)を終えたご褒美にね、教えてくれたんだ。

記憶も残してくれたし、こうやってまた僕を人間にして君に会わせてくれたし…神様って案外良い人だね。あぁ、人じゃないから良い神、かな?」


死神

「へぇ」


「あっ、もう死神さん。じゃないよね?

名前、聞いても良い?」


死神

「ああ、そうだったな零。お前の名前もあとで教えろよ?

俺様の名前はなぁ…」


零M

すっと手がのびてきて

僕は親友に命を抱きしめられた。

新しい名前は

死神さんに似合ったとてもあたたかい響きで、呼んでいるだけで心がぽかぽかになった。

会いたかった、遅ぇんだよ、馬鹿。

と、乱暴な言葉だったけど

抱きしめる腕と声は優しくて、そして微かに震えていた。


死神M

思わず目の前の命を抱きしめてしまった。

何度も何度も確かめるように親友の名前を呼んだ。

俺が呼ぶ度に、照れくさそうに何度も返事をしてくれる。

その声は、震えを隠しきれていなかった。

俺様がずっと待ち続けていた。

世界で1番愛しい命が、ようやくここに還ってきた。


死神

「あぁ、命って。あったけぇなぁ…」


END

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

※ここからは台本の解説を含んだあとがきと作者の独り言です。

特に読まなくても台本は演じられるかと思います。

ただ、もっとより物語を深く理解したい方、おおの考えてる事を覗き見したい方はどうぞこの先をお読みください。


~あとがき~


「タイトルの意味」

la vie~ラ・ヴィ

→フランス語で”命・生命”を意味する言葉です。

死神は終わりを迎えた命を運んでいる使者であり、

零はクローン人間という倫理的には許されないとされている命です。

零のルーツの人間は、父親が自らに無断でクローンを創る禁忌に手を染め、金儲けをしていた事に怒りと悲しみと責任を感じ、零を刺したあと自らの命を断ちます。

そして、輪廻転生ののちに再会し

あったかい命を感じる死神と零。

環境や境遇は違っても

生まれてくる命は、みな尊くてあたたかいと私は思っています。

命とは何かを考えるきっかけに。

そしてあなたの命もまた尊いのだと思ってもらえたら嬉しいなぁと思い、このタイトルをつけました。


「死神の輪廻転生」

死神は魂の回収率100%のエリートでした。

死ぬことが決まって生まれてくる人間が最後に命乞いし、ギリギリまで命に縋り付く姿は往生際が悪く醜いとさえ思っていました。

けれど初めて命乞いせず自らを殺して欲しいという人間、零に出会い、むしろ命乞いをさせたくなりどうにか零の後悔を引き出そうと奮闘します。

零がクローン人間だと知り、隠していた零の本音に触れ、初めて人間の、零の命を愛しいと思いました。

突然奪われた零の命に為す術なく、悲しみの中で神に喧嘩を売った結果、「人間として輪廻転生を繰り返す」という罰を受けます。

何度も人として生まれ変わり零を探す中で、

ずっと見下していた人間が、自分以外の色々な命が、みなとても素晴らしいものだと気づきます。

そしてようやく零に再会し、大切な人の命のあたたかさを改めて深く感じるのです。


「クローン研究所」

零がいた施設は、財閥や著名人などのクローンが、大量に秘密裏に創造されていました。

自らの遺伝子なので、怪我や病気の際の臓器移植を行う拒絶反応が起こらない。

ある種の永遠の命を実現しようとしていました。


「零という存在」

零はある財閥の子供のクローンの総称です。

この研究所にはたくさんのクローン人間がいますが研究員は全員を零と呼んでいます。

この研究所はある財閥の子供の両親がつくったもので、零は自分のルーツである人間と小さい時に遊んでいました。

その子どもは生まれつき身体が弱く、いつか心臓移植が必要といわれていました。

この子供の両親は移植の拒絶で命を落とした事例を多数知っていた為、クローンを創造し自分の子どもの命を永らえる事を強く望み、大量の出資をしこの研究所を作りました。

零のルーツである子供が病気で視力を失いかけ角膜移植が必要になり

最初の実験も兼ね、零の角膜を移植した結果、零は視力を失ったのです。


「オマージュ」

タイトルも知らないのですが

あるショート動画がYouTubeを見ていたら突然流れて来ました。

有名な女優さんが、大人に連れていかれそうになり泣いて友達に助けを求める中、

私たちは天使なんだから役目を全うしないといけないと励まし、見送ります。

死にたくないと泣いていた女性も、それを励ましていた女性も

いずれ臓器移植をするために天使と呼ばれて育てられていた命でした。

その行為は

ある意味、殺人と呼ばれるもののはずなのに、自らの役目を受け入れて友達に死を受け入れさせようとする姿が衝撃的でした。

これを見た時にもしも自分だったらと思ったら涙と震えが止まらなくて

もしかしたら世界には本当にこんな役目を背負わされた命があるのかもと思ったら

どうにも苦しくなり、命ってなんだろうと

私なりにこの作品を書きました。

もし原作を知っている方はパクリだと思われたかもしれませんが、設定だけお借りした作品へのオマージュと捉えていただけたら幸いです。


では、また他の台本でお会いできたら嬉しいです。













































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