「この想いをなんと呼ぼうか-それぞれの卒業-」


      たとえ先生がこの想いを否定したとしてもね。

              私にとっては全部、全部…ちゃんと本物だったの

                     


こちらの作品は片摩 廣様主催

#オンリーONEシナリオ2526声劇

の企画参加の3月テーマフリー参加台本です。

素敵な企画への参加を打診してくださりコウさん、ありがとうございます。


キャス画は「美雲瀬 依様」に作成していただきました。
上演の際にはお使いいただいてもかまいませんが、自作発言は絶対におやめください。


ご使用の際は一度

「利用規約のページ」を必ずお読みになってからお願いします。


⬛︎登場人物

冬越 心春(ふゆこしこはる)

→痛みと弱さを抱えてなお、誰かの春になろうと懸命にもがき生きてきた高校3年生。


素道 直樹(すどうなおき)

→唯一真実を知り、自分の心を置き去りにしてでも常に味方で在り続けた保健医。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

※以下、上演の際にお使いください


「この想いをなんと呼ぼうか-それぞれの卒業-」

作:七海あお

https://9510102721.amebaownd.com/posts/56572767?categoryIds=7677480

Cast

素道 直樹(すどう なおき)︰♂︎

冬越 心春(ふゆこし こはる)︰♀︎

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「台本」

◾︎学校の屋上、タバコに火をつける教師。口から吐き出された煙が空に昇っていく


素道

「あいつらも卒業か…。

気づけば…あっという間だったなぁ。

どんなにあの日をやり直せたらって、そう思ったか。

なぁ、お前だって本当は後悔してんだろ?

ちょっとは反省してんなら、あいつの事、ちゃんと見守ってやれよ?

なぁ…頼むよ」


冬越

(声色を変えて)

「授業中にタバコ吸ってるのは誰?生徒に示しがつかないでしょ!」


素道

「!?

す、すみません。今すぐ消します。って…お前か冬越(ふゆこし)」


冬越

「えへへー。似てた?」


素道

「全然っ似てねぇ」


冬越

「ええ?

かなり上手くなったと思ったのになぁ。校長先生の真似」


素道

「誰にウケるんだよそんな身内ネタ。

その努力するエネルギーがあんならもっと違うことに使え」


冬越

「直先生、きっとここだと思ったんだ。

この時間はいつもサボって煙草吸ってるもんねー」


素道

「お前、今、卒業式の練習してるはずだろ。どうした?具合でも悪いのか?」


冬越

「要らなくなったから」


素道

「えっ?要らないって」


冬越

「せめてみんなと卒業式、したかったんだけどなぁ。

まあ、しょうがないよね」


素道

「あっ、ちょっお前何やって…返せ」


⬛︎冬越、素道のタバコを奪って吸う


冬越

「(盛大にむせている)」


素道

「バカ!おまえ、なにしてんだ」


冬越

(息を整えてから)

「だってタバコ吸ってむせちゃうぐらい。私、まだまだ子どもだしね」


素道

「お前なぁ、無茶すんな。

タバコは別に年齢関係ないから。

それに、お前単位は余裕で足りてるから留年じゃないだろ」


冬越

「私、海外の親戚の家に行くの。今日の飛行機で発つことになった」


素道

「親戚の…家?海外?」


冬越

「ほんと子どもって不便で不自由だよねー。

何もかも大人の都合優先でさ、自分の卒業式さえ出られないんだもん」


素道

「なんでなんだよ。明日は卒業式だろ。せめて1日ぐらい待てなかったのか?」


冬越

「どうせ誰も来ないよ。父は仕事。母は…入院したから」


素道

「!?」


冬越

「3日前ぐらいかな。

もう、マナトのふりは出来ない。

私はマナトじゃない!って言ったらさ、おかしくなっちゃってさ。

入院しちゃった…お母さん。

お父さんはずっと病院?なのかな?わかんない。

家には、帰ってきてない」


素道

「…俺が、お前をたきつけたからか?

それは、その。

俺が…悪かっ…(た)」


冬越

(遮って)

「謝らないで、先生!

私、後悔してないから。むしろスッキリした!

先生のおかげでね、私はちゃんと自分自身に戻って、自分の人生を生きるって決められたの。

親戚のおばさんに伝えたら、うちの子になりなさいって言ってくれたんだ。

だから私、あの人達を捨てることにした」


素道

「…」


冬越

「ほんとはとっくに気づいてた。

もうあの日から、私は居ないんだ、あの人達の中に。

私の顔見て、マナトって呼ぶんだもん。

だからずっとマナトのフリするしか無かった。愛されてるって思いたかったんだぁ。

例えそれが偽りでも。」


素道

「偽り…」


冬越

「でもね…本当はずっとずっと苦しかったからさ。

ようやく…解放された」


素道

「…」


冬越

「私、マナトのこと大好きだったから、すっごく悲しかったし、止められなかった自分を責めたけどさ、今は…今はさ。

あの人達の心持ってって死んじゃったマナトのこと、ちょっとだけ…。

いや、かなり恨んでるかな(苦笑)

ほんと酷いよね、私」


素道

「いや、お前の話聞いてると、そう思ってしまうのも無理は…無いと思う」


冬越

「家族を恨んでるのに?実の両親を捨てようとしてるのに?」


素道

「お前だって、何年も自分を殺して。

あいつのフリをして生きて、散々苦しんだんだろ?

それが、お前の心と身体を守るためなら、お前がお前として生きる術なら、

選んで良い道だと思う。

それが、お前が本当に望んで決めた事なら、俺は全力で応援する」


冬越

「ほんと、直先生らしいなぁ。

直先生だけだよ?

私の作り笑顔と隠していた涙に気づいて、味方になってくれたの」


素道

「お前は…妙に大人びてる。

平気なフリが、うますぎるんだよ」


冬越

「だって、気づいたところでじゃない?

同情はされたくなかったんだもん。

あの人達ね、私の顔見てると、思い出して辛いんだって…。

なんで私、双子になんか生まれたんだろ」


素道

「なんだよそれ。

そんなの勝手すぎんだろ!

だって…どんなに姿形が似てたって、お前は、お前だろうが」


冬越

「いつだって直先生はそうだね。

ありがとう…直先生」


素道

「いや、俺は別になにも」


冬越

「私だけ卒業式が無いのも寂しいし悔しいからさ。

あのね?少し早い卒業式、ここでするね」


素道

「えっ?ここでか?」


冬越

「今からすっごくガキなことたくさん言うけど、最後だから…ごめん。

全部許してね、直先生」


素道

「お前、最後って…それどういう意味だ?

まさか!」


冬越

「大丈夫だよ。

私はここから飛び降りない。

マナトとは違う。

自分で命を断ったりなんかしない。

だって、残された人達がこんなに苦しむことを、私が1番良くわかってるもん。

痛いほど、味わってきたもん」


素道

「冬越…」


冬越

「直先生。

私、直先生のこと好きだよ。

いつも冗談ぽく言ってたけど、本当に本気で直先生の事…人として、異性として、

恋愛対象として…好き」


素道

「冬越。

お前の気持ちは、とても嬉しい。

でも、俺は保健医とはいえ、教師だ。

生徒のお前の気持ちに答える事は…悪いが出来ない。すまない」


冬越

「とうとう、ちゃんとフラレちゃったか。

そんな顔しないでよ、答えはわかってたもん。

わかってたけど…ただ伝えたかっただけ。

ちゃんとフってくれて、ありがとう」


素道

「すまない」


冬越

「だから謝らないで。

そんなの直先生らしくない。

直先生はなんも悪くない、むしろ感謝してるの。

本当にありがとう」


素道

「…」


冬越

「先生はさ、

『子どものうちは大人が異様なほど素敵に見える時がある。

俺に対するお前のその気持ちは、一時のまやかしだ』って言ったよね?」


素道

「ああ。言ったな。今もその考えは変わってない」


冬越

「確かにそれも0じゃないのかもしれない。でもね。

でも…先生がどんなに否定しても。

例えこの気持ちを受け入れてくれなくてもね。

私にとっては全部、ぜんぶちゃんと本物だったの!

だって…

こうやって目を閉じて3年間を振り返ってみるとね、

浮かんでくるのは…

先生の事ばっかりなんだもん」


-過去の回想-


素道

「お前らずいぶん緊張した顔してんなぁ。

よし!なんでも質問して来い。

答えられる範囲なら、なんでも答えてやる」


冬越

「あ、あの」


素道

「はい。どうぞ」


冬越

「先生の下の名前って、なんていうんですか?」


素道

「あっ…。

俺、まだ名字しか伝えてなかったか。

悪りぃ、悪りぃ、うっかりしてた。

下の名前は、直樹(なおき)だ。

冬越(ふゆこし)、緊張してただろうに一番に聞いてくれてありがとな」





冬越

「直先生。

人の命って呆気ないね。

私、行ってらっしゃいって言っちゃったの。

なんで気づけなかったんだろう。

私だけは気づかなきゃいけなかったのに!

止めなきゃいけなかったのに!」


素道

「双子だからって全部わかるわけじゃないだろ。神様じゃねぇんだから。」


冬越

「でも!

私が、背中を押したようなものだもん。

死にに行こうとしてたのに行ってらっしゃいなんて」


素道

「お前は気づいてなかったんだから、出かける人間に行ってらっしゃいなんて、みんな言う言葉だろ」


冬越

「わたしが死ねば良かったのに…」


素道

「!?

お前本気で言ってんのか、それ」


冬越

「だって…みんな言ってる。

私が代わりに死ねば良かったのにって」


素道

「誰だそいつ」


冬越

「えっ」


素道

「俺が今から一人残らずぶん殴ってやる!

あのな?誰かの代わりに死んで良い人間なんてな、この世に一人もいねぇんだよ!!!!!」



冬越

「私ね、一滴も涙流れないんだ…。

お葬式も告別式も出て、死んだって頭ではわかってるのに。

あれからもうずいぶん経ったのに…変だよね?

冷たすぎるよね、私」


素道

「変な訳あるか。

悲しすぎたら、心が壊れて逆に涙が出なくなることだってあるんだ。

誰にも責められる事じゃない。

それに…お前は今でも、こんなにちゃんと悲しんでる」


冬越

「あっ…」


素道

「ほらな。出たろ?涙。

お前はみんなの前で笑顔でいる為に、涙を必死に堪えてただけだ。

よく、耐えてたな。偉かったな、強かったな」



冬越

「先生、私、整形しようかな?」


素道

「どっかコンプレックスでもあるのか?」


冬越

「みんな私の顔見ると、気まずそうな顔するからさ。

まあ、そうだよね…。

死んだはずの人間が、幽霊がそばにいるみたいな感じだもんね」


素道

「それが理由か?」


冬越

「うん。ほんと遺伝子って凄いなぁ。性別違うのにそっくり」


素道

「他に理由が無いなら、俺は反対だ」


冬越

「えっ?」


素道

「コンプレックスで苦しんでるやつが、前向きに生きる為にする整形を、俺は悪とは思わない」


冬越

「…」


素道

「だが、お前のそれは…お前の本当の望みじゃないだろ?

整形は魔法じゃない。それなりのリスクも伴う。

いつかきっと後悔する日が来るとわかってて、偽りの決断を肯定は出来ないな。

もう一度ちゃんと考えろ。

それでお前、本当に後悔しないのか?」



冬越

「先生ありがとう。もうだいぶ頭痛落ち着いてきた。

さすがにこの時間じゃ早すぎて家には帰れないから…どうしようかな」


素道

「教室、戻らないのか?」


冬越

「戻れない…かな。

もうあそこには、私の居場所無くなっちゃった」


素道

「冬越、お前はそれでも、学校に来たいんだな」


冬越

「うん、来たい!」


素道

「ならここにいろ。

これからは毎日保健室に登校すれば良い。

安心しろ。

勉強なら、俺が教えてやる」


冬越

「え、良いの?

だって、そんな生徒誰もいないでしょ?

直先生、怒られちゃう」


素道

「前例が無いなら作れば良いだけだ。

頭なんかいくらでも下げてやる」


冬越

「でも…先生に迷惑かけちゃう」


素道

「何が迷惑なもんか。

俺はな、頑張ってる生徒に手を差し伸べる事も出来ねぇような、そんな教師になったつもりはねぇんだよ。

お前はここで勉強してろ。今から校長室行ってくる」



冬越

「あの…日頃の感謝って思って作ったんだけど…。

やっぱり食べないで?なんか別の買ってくる。

あっ…」


素道

「確かに…。だいぶ堅いけど。

食えなくは無い。安心しろ、俺、歯は丈夫なんだ。

それにな…一生懸命な味がする。

買った方が楽なのに俺の為に気持ち込めて時間かけて作ってくれたんだろ?

ありがとな、冬越」



冬越

「んー。全然わかんない。どうしよう。間に合わないぃぃぃぃぃ」


素道

「はいストップー。午前の勉強はおわり」


冬越

「直先生、何すんの!?

明日テストなのに」


素道

「お前は少し寝てこい。

今の状態じゃ何時間続けたって時間の無駄。

勉強はその後だ。

昨日、眠れてないんだろ」


冬越

「えっ?なんでそれ…」


素道

「だって明らかにいつもより集中力ねぇもん。

大丈夫だよ、お前なら。

なんたって俺様が教えてんだからな」


冬越

「それ、自分で言う?(笑)」


素道

(笑)

「それを言える気持ちの余裕があんなら…大丈夫だ。

ほら、さっさと寝てこい」



冬越

「本当、自分勝手だよねぇ。

わかってるのに。

私が始めた事だって。

でも、どうにも…もう、苦しくて」


素道

「当たり前だ。

お前はお前なんだ。

誰も誰かのフリなんて出来ねぇんだよ」


冬越

「直、先生」


素道

「誰かの人生をお前が代わりに生きることなんて、どうやったって出来ねぇんだ。

どうしたってお前は、お前なんだから」


冬越

「うん。そうだよね。

直先生!

ありがとう。私、ちゃんと伝えてみる」


素道

「おう!頑張れよ!」



冬越

「直先生、私ね、マナトのフリはもうやめるって言ったの。ちゃんと私の人生を私として生きたいって。

頑張って、勇気を振り絞って伝えたの。

そしたらね…ひ、人殺しって言われちゃった。

お前は2度も…マナトを殺すのかって…」


素道

「!?

そんな…そもそも最初だって、お前が殺した訳じゃないだろ。

いくらなんでも…言って良い事と悪い事がある!

ましてや…本当の親なのに」


冬越

「精神病んで狂ってる状態とはいえさ…結構来たなぁ…。

私、2度も殺しちゃったんだってさ…マナトの事」


素道

「冬越…」


冬越

「ねぇ、直先生。

私、一生マナトのフリして生きてた方が良かったのかなぁ」


素道

「冬越…」


冬越

「…私、何か間違っちゃったのかなぁ。

もう、どうしたら良いかわかんなくなっちゃった」


素道

「お前は、本当はどうしたいんだ?」


冬越

「えっ?」


素道

「親といえど、俺はお前の、子どもの心を踏みにじる権利なんて、無いと思う。

お前の人生はお前のものだ!

誰にも奪えない。奪って良いはずがない。」


冬越

「直、先生」


素道

「冬越、お前の人生だ、お前が決めて良い!

お前が今、ここで決めろ!

冬越、お前はこれから、どう生きたいんだ?」



-回想終了-



冬越

「大袈裟じゃなくて私、直先生に救われて支えられてここまで生かされてた。

危なかったんだよ?

死神に何度も手招きされてさ。

でもその度に…直先生が助けてくれた」


素道

「俺は別に何も」


冬越

「そういうとこ」


素道

「え?」


冬越

「どうするべきかじゃなくて、私の気持ちを1番大事にしてくれた。

私さえ諦めてたのに。

いつも私を私として、接してくれた」


素道

「そんなの、当たり前だろ。

お前は、お前なんだから」


冬越

「違うんだよ先生!

当たり前じゃないの。

私には…当たり前なんかじゃなかったの。

親だって、誰も私を…。

ううん、私でさえ私を。

私として扱ってなかったんだから」


素道

「冬越…」


冬越

「先生だけが、私を私として接してくれた。

先生は、私の欲しい言葉をくれた。

どんなに苦しくても保健室に来れば先生に会えた。

私、先生に甘えて頼って…。

どんどん欲張りになって他の人がそばにいるのも段々許せなくなっていった。

それで、あんな事」


素道

「ああ。お前の様子が少しづつおかしくなっていたの、気づいてたよ。

俺の態度が、お前をそうさせちまったのかもしれないな。すまない」


冬越

「先生が居なくなったら生きられないかもしれないって本気で思った。

それで、気づいたら手首に赤い筋ができてた。

私…何か支えが欲しくて、きっと直先生にね、いつの間にか依存してたんだと思う」


素道

「冬越。

生死を握ってしまうほどの依存は…健全な愛とは呼ばない。

少なくとも俺は…そう思う」


冬越

「うん。

直先生ならそう言うと思ったし、私もそう思うよ。

だからね…私なりにすっごくいっぱい考えて。

ちゃんと卒業式しようって思ったの。」


素道

「卒業式…」


冬越

「直先生」


素道

「なんだ?」


冬越

「私は今日、直先生を卒業します」


素道

「俺を…卒業、する?」


冬越

「うん。

このまま直先生のそばにいたら、

本当に私、取り返しのつかない事してしまいそうで。

だから私、ちゃんと直先生がいなくても生きていける人になろうって。

だから卒業式しようって決めた。

私…直先生を今日で、卒業するね」


素道

「冬越…お前」


冬越

「1つだけごめん。

直先生から貰ったたくさんの言葉達と、私が直先生を好きになった気持ちだけは、このまま、私の中で抱えたままでいさせて?

たとえ直先生でも、この気持ちは否定させない。

これがあれば私きっと…直先生無しでもちゃんと生きていけるから。

だから…それだけは…許してね?」


素道

「冬越…。

俺の方こそ悪かった。

ちゃんと教師と生徒という距離を保っていたはずだった。

なのに…お前にそんな思いを抱かせちまって」


冬越

「直先生。だから謝らないでって。

こういうのはきっと誰が悪いものじゃないんだよ。

もしかしたら私が直先生に抱いたこの想いは。

これは…恋とか愛とかそんな綺麗なものでは無いのかもしれない。

でもね、私には…やっぱり紛れも無く本物なんだ。

これを恋と呼んで大切にしたくなる位には」


素道

「そうだな。

謝るのも、逆に失礼か」


冬越

「うん。ほんとそう」


素道

「じゃあ。あえてこう言わせてくれ。

冬越、俺のことを好きになってくれて、ありがとうな」


冬越

「どういたしまして。それでこそ直先生だよ。

ねぇ、言ってくれないの?」


素道

「何をだ?」


冬越

「名前呼んで、卒業おめでとうって。

だって、卒業式なんだよ?私」


素道

「…」


冬越

「わがままを言ってるってわかってる。

すっごく子どもみたいな事言ってるのもわかってるの。

でも…最後に、背中を…押してくれないかな?

明日も、明日以降も。

ちゃんと私が私として挫けずに、未来を生きていく為に」


素道

「こんなの、わがままでもなんでもねぇよ。

なぁ、冬越、そんなに急いで大人にならなくてもいいんだぞ?

お前はまだ、子どもでいて良いんだ」


冬越

「直先生。

私、もう決めたの。

お願いします。

どうか最後に…勇気をください」


素道

「…わかった。

冬越 心春(ふゆこしこはる)。

卒業、おめでとう。

俺は、お前のような生徒に出逢えた事を、教師として心から誇りに思う。

お前らしく、幸せになれ」


冬越

「うん。

ありがとう、直先生。

直先生も、元気でね!

直先生の幸せを、心から願ってます。

私にとっての高校生活は全部、直先生1色(いっしょく)でした。

大好きだったよ…さようなら」


素道M

遠ざかっていくセーラー服。

震える背中。

声はうわずりながらも

最後まで涙が零れるのを我慢して笑っていた。

己の運命と向き合い。

命と向き合い、必死に大人になろうとした、1人の少女。

なあ、本当に良いのか?

これでお前は…本当に後悔しないのか?

次の瞬間、俺の足は走り出し

無我夢中であいつの名前を叫んでいた


素道

「冬越ー!冬越ー!!!!!」


冬越

「え?直、先生なんで…

!?」


素道

「冬越…悪かった」


冬越

「なんで謝るの?それに、なんで抱きしめてるの?

先生と生徒はこういう事しちゃいけないんでしょ?

早く離れないと誰か来ちゃったら…(大変だよ)」


素道

(遮って)

「お前は、直先生を卒業したんだろ?

それに今日でこの学校を去る。

だったら今の俺は、教師じゃなくて1人の人間だ」


冬越

「そんなのずるい…」


素道

(ずるいに被せて)

「ずるいよなぁ…俺。

わかってんだよ。わかってる!

でも、追いかけずには。

お前の事抱きしめずにはいられなかった」


冬越

「直先生にだけは、同情なんてされたくないんだけど」


素道

「同情じゃない。

お前の事、1人の人間として尊敬してるから。

親友にだって…ハグぐらいするだろ」


冬越

「そんなの屁理屈じゃん」


素道

「ほんとそうだよな。

散々お前の気持ちに気づいてはぐらかしてたんだもんな。今更だよな。

本当に…悪かった」


冬越

「…」


素道

「俺な、ほんとは言い聞かせてたんだ。

教師と生徒だから間違っちゃいけないって。だから…お前の事を異性として、恋愛対象として考えた事は今まで1度も無かった。

それは…一生変わらないって思ってた。

けど…」


冬越

「けど…何?」


素道

「お前は逃げずに、真っ正面から俺への気持ちを伝えてくれた。

そんな純粋な気持ちから逃げるのは、むしろ失礼だなって思った。

それに…」


冬越

「?」


素道

「必死に涙を堪えて笑ってる姿を見て…初めて思ってしまったんだ。

なんて素敵な女性だろうって」


冬越

「それって…」


素道

「お前が許してくれるなら、

お前の事…これから真剣に考える。

恋愛対象として」


冬越

「許すもなにも…本当にそんな事言って良いの?後悔しない?」


素道

「少なくともお前の事は人として尊敬してるし好きだ。

今はまだ、この気持ちが、なんなのかは分からない。

恋と呼ぶものなのかも、まだ答えは出せない。

けど…約束する。

これからは逃げずに、お前とちゃんと向き合うって」


冬越

「直…先生」


素道

「先生は卒業したんだろ?

直樹で良い」


冬越

「直…。そんないきなりは無理だよ」


素道

(笑)

「そりゃそうか。なあ、冬越」


冬越

「ん?何?」


素道

「お前はもっと広い世界を見てこい。いろんな男を見てこい。

それで何年か経って…それでも俺が良いって思ってくれたんならそん時は…」


冬越

「その時は?」


素道

「まっ、そん時はそん時伝えるさ(笑)」


冬越

「何それ。意味わかんないんだけど(笑)」


素道

「冬越、改めて卒業おめでとう!

行ってこい、お前らしく」


冬越

「うん!行ってきます」


素道M

俺は今日、卒業した。

教師と生徒という関係を。

思わず言いかけた言葉に…俺自身が驚いて

慌てて飲み込んだ。

本当はもう、とっくに惹かれていたのかもしれない。

容易くないはずの

己の運命から逃げること無く必死に向き合い、それでも懸命に生きて笑っていたその強さに…


冬越M

私は今日、卒業した。

依存して、直先生無しでは生きられなくなってしまっていた弱い自分から。

大切な人をこれ以上傷つけてしまうのが…どうしても怖かった。

いつか私が大人になったその時は…

あの家族を赦(ゆる)せる日も、来るのだろうか。

依存ではなく、大切な人を護り、愛せる強さを持てる日が…来るのだろうか。


素道M

この先の俺たちがどうなっていくのかなんて誰にもわからない

けど…


冬越M

もう、振り返らない。

後悔しない。

私は、私として

自分の人生を生きていく!

そう、決めた。


素道M

俺たちはそれぞれ、今までのじぶんを卒業し

今日、新たな一歩を踏み出したんだ。

これは…始まったばかりの俺たちの物語。

結末は…そう


冬越M

私たちはもちろん

きっと神様さえ…まだ知らない


⬛︎学校の屋上。真っ直ぐに伸びる飛行機雲を眺めながら、タバコに火をつける直樹


素道

「おっ、飛行機雲。

迷うことなく真っ直ぐ伸びてんなぁ。

そろそろあいつらも…無事に着いた頃かな。

なぁ、これからの俺よ。

この想いを…なんと呼ぼうか?」

END

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【あとがきにかえて】

※ここからはあおの独り言です。

作品に込めた思いだったり、あおの頭の中を少しだけ覗けます。

興味がある人だけお読みください。


「双子の死」

マナトは双子の兄です。

一卵性双生児で、親や親友も間違うほどよく似ていました。

ある日、マナトは学校の屋上から飛び降ります。

遺書も何も残っていなかったので理由は誰も知りません。

最後の言葉は、心春に言った

“行ってきます”でした。

彼の死後、両親、クラスメイト、色々なものがおかしくなっていきました。


「狂った両親」

両親は最初、マナトを救えなかった自分達を責めていました。

ですが結局、死を受け入れる事が出来ずにやがて狂ってしまい、心春の事をマナトと呼ぶようになります。

心春は困惑しますが、マナトのフリをした時、両親は久しぶりに笑ってくれました。

それから2人の心を護る為に、家ではマナトとして過ごすことになったのです。

心春が自分に戻って生きると決め、再びおかしくなってしまいました。


「名前に込めた思い」

台本を書くとタイトルと名前に毎回めちゃめちゃ悩みます。

今回はひさしぶりに名前に特別な意味をもたせました。


冬越 心春(ふゆこしこはる)

→冬を越え、心に春が訪れますように。

→人の心に春をもたらす人で在りますように。


素道 直樹(すどうなおき)

→自分の気持ちに素直に進んでいけますように。

→樹のように、たいていのことでは揺らぐ事無い、芯を持った人で在りますように。


冬越 心翔(ふゆこし まなと)

→冬を乗り越え、心が本当の意味で翔ける日が訪れますように。


「素道の秘密」

冒頭の言葉は、マナトにかけていた言葉です。実は素道だけはマナトの死の真相を知っていました。

だからこそ、心春(こはる)の事をずっと見守っていたのです。

ラストシーンの

「そろそろあいつらも無事に着いた頃かな」には

“小春が無事に海外に着いた”

“心翔の魂が浄化されて昇って行った”

という2つの意味が込められています。


「タイトルに込めた想い」

シンプルに卒業の2文字にしようかなとも思ったのですが、どうにも有名過ぎる卒業という洋画がチラついてしまい、このタイトルにしました。

セリフをタイトルにするのはシチュボの頃からの癖かもしれません。

今回のタイトル、個人的に結構好きです。


「あとがきにかえて」

ある方にあおちゃんを季節に例えるなら春。冬の厳しい寒さを乗り越えた上で、笑ってるそんな強さと温かさを感じるの。

って言ってもらった言葉がとても嬉しくて、いつかそんな作品を書きたいなぁとぼんやり思っていました。

また企画主催のコウさんからは、作品楽しみにしているねぇと言っていただき、

それらが重なりある日レミオロメンさんの3/9が頭に流れてきました。

そっか、もう卒業シーズンか。

なんて電車の中で目を閉じていたら小春が突然

「でも…先生がどんなに否定しても。

例えこの気持ちを受け入れてくれなくてもね。

私にとっては全部、ぜんぶちゃんと本物だったの!

だって

こうやって目を閉じて3年間を振り返ってみるとね、

浮かんでくるのは…

先生の事ばっかりなんだもん」

って言ってました(笑)


心春のセリフから

レミオロメンさんの3/9の

「瞳を閉じれば貴方が瞼の裏にいることで、どれほど強くなれたでしょう。あなたにとって私もそうで在りたい」という歌詞が

私の中でシンクロし、

数日書いていたらまさかの雪まで降ってきて。

あぁ、これは心春と直樹に書かされている作品なんだなぁって思い、気づけばその日のうちに書き上がってました。


なんかね、物語を書いてるとキャラに書かされる時ってあるんですよ。

まさに今回そうだったなって思います。

ハッピーエンドなのか、はたまた違うのか

今回はあえて答えを作りませんでした。

2人のこれからは演じて下さった、読んでくださったあなたのご想像におまかせします。

ただ1つ確かなのは

これは私なりの「愛の物語」ってことです。

ここまで読んで下さって

数ある作品の中からこの作品を手に取って下さって本当にありがとうございました。

どうかあなたにとって、この台本との時間が素敵な時間となりますように。

七海あお



シナリオの海

七海あおの声劇台本のサイトです

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