返る


※こちらの台本は
オンリーONEシナリオ2022企画の3月台本として執筆したものです


※利用規約をお読みいただきご理解いただけましたらご使用ください。
それではどうぞ最後までお楽しみくださいませ。


【登場人物】

■遠山修二(とおやましゅうじ)
ホスト。タバコが精神安定剤。
美希と出逢い初めて真剣に人を愛したと言ってこの村を訪れるが…

■春乃 美希(はるのみき)
クズ男の作り話を信じ夜の世界に入ろうとする、疑う事を知らない健気で危なっかしい女性。
弥生は不憫に想い生かして帰そうとする
が…

■弥生(やよい)
人形村の案内人
黒髪の髪をおろしている和服美人。
とても穏やかで優しいが実は…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
↓↓↓
上演の際、よろしければお使いください

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「返る」
七海あお
遠山修二♂
春乃美希♀︎
弥生♀︎
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ここから本編です
↓↓↓


弥生N
人形村
この村には毎年とてもたくさんの数の人形が村中に飾られる
あまりにも人間にそっくりな精巧な作りなので、見るものは驚き本当に人形なのかと疑う程

そしてこの村にはある特別な言い伝えがあった

今日もまた一人
自分達の愛を確かめたい一組の男女が村を訪れた


〈村の奥の大きな旅館の入口〉
■一組の男女を迎える黒髪の女性

弥生
「遠い所からはるばるよく、この人形村へお越しくださいました
さぁ、外は冷えます
どうぞ中へお入りください」

美希
「素敵な黒髪ですね
肌も白くて、まるでお人形さんみたい
ねっ?」

修二
「ああ。でも美希だって綺麗な髪してると思うぞ?俺はその髪の色、好きだな」

美希
「ありがとう」

弥生
「お褒めいただきありがとうございます
髪の手入れにはとても気をつかっております
それに一年中を家の中で過ごしますゆえ、こうして肌が白くなるのです」

美希
「へぇー。そうなんですね 。
あとでぜひお手入れ方法教えてください」

弥生
「ええ。良いですよ」

美希
「ほんとですか?やったあ」

修二
「美希!あの、なんかすみません図々しくて」

弥生
「いえ。褒められて悪い気は致しません。さぁ、お疲れでしょう?
立ち話もなんですから、どうぞ靴を脱いでお上がりください
ご案内致します」

■弥生に着いていく二人

SE:ふすまを開ける音

弥生
「さぁ。どうぞこちらの部屋へお入りください」

美希
「ありがとうございます。失礼します」

修二
「失礼しまーす」

弥生
「そちらの座布団をお使いください」

修二
「ありがとうございます。美希、はい」

美希
「ありがとう」

修二
「あの、お話結構長くなりますかね?俺、正座とか足痺れて動けなくなりそうで」

美希
「もう!修ちゃんたら失礼だよ?すみません」

弥生
(笑)
「いえいえ。面白い方ですねぇ。
なるべく手短に済ませます。なんなら脚崩してもらって構わないですよ?」

修二
「え?本当ですか?ならお言葉に甘えて遠慮なく」

美希
「もう!修ちゃん!でも、私も実は足痺れないか心配だったんだよね~。本当に良いんですか?」

弥生
「ええ。どうぞ楽になさってください」

美希
「ありがとうございます」

弥生
「さっそくですが
お二人はこの村の言い伝えを聞いてお越しくださったのですね」

美希
「はい
彼が、夫婦になろうって…」

弥生
「それはそれは
大変おめでとうございます」

美希
「ありがとうございます
それで、彼が、この村の言い伝えを教えてくれて」

修二
「はい
初めて聞いた時、とっても素敵だなって思ったんです
最近だとお忍びで芸能人も」

弥生
「ええ
そうみたいですね」

修二
「ん?案内人は他にもいらっしゃるんですか?」

弥生
「いえ?私だけですよ」

修二
「では、そうみたい…というのは?」

弥生
「ああ
この村には、文明の利器がありません
特別な力を維持するため全て遮断しているのです
ですので、芸能人の方とか、私、お恥ずかしながら、よく、知らなくて…
この前取材にいらした方がその様な事を仰っていたので…」

美希
「なるほど
力を維持するために文明の利器を遮断する
凄いですね…
ああ、だからスマホとかパソコンとか持ち込み禁止なんですね」

弥生
「ええ
たとえ持ち込まれたとしましても、この村は磁場が強いため
そういった機器はただの箱。なんの役にもたちません」

修二
「そう…なんですね」

弥生
「たった一箇所だけ、奇跡的に繋がる所はあるらしいのですが…
私も聞いた事があるだけなので、実際はどうかわかりません。
それに…
もしその様な機器を持ち込まれましたならばその時は…」

修二
「えっ?」

弥生
「いえ、なんでもありません。
これはきちんと約束を守ってくださったあなた方にはお話する必要の無い事でした。
失礼いたしました」

二人
「……」

弥生
「申し遅れました。
私、この人形村の案内人をつとめております
弥生と申します
お二人の式の介添・進行もつとめさせていただきます
どうぞよろしくお願い致します」

修二
「遠山修二(とおやましゅうじ)と申します。こちらこそよろしくお願いします」

美希
「春乃美希(はるのみき)です。お願いします」

弥生
「すでにご存知かと思いますが…
この人形村では、この村で式をあげ晴れて夫婦になられたお二人が夫婦杉に同時に触れると真(まこと)の愛で結ばれた二人であれば
その杉が輝き出し、二人は一生を添い遂げる事が出来る。
そんな言い伝えがございます」

修二
「はい
実は俺の友人が教えてくれたんです。
なんかそういうの素敵だなって…
俺、実は弱いんですよね、真実の愛とかそういう言葉…
もし光らなかったらと思うと少し怖いですけど…」

美希
「私と修ちゃんなら絶対大丈夫だって!」

修二
「ありがとう。
美希に出逢って、あー。月並みな言い方になりますけど、身体に電気が走るみたいな衝撃があって…」

美希
「私も!運命っていうのかな。出逢った瞬間、あー私この人と結婚する!って直感で感じたの!
えへへ。
なんか修ちゃんて、見た目こんな感じで派手だし、ホストだし、タバコも吸うし割と思った事はっきり言っちゃうから誤解もされやすいんですけど…」

修二
「悪かったなあ、こんな見た目で」

美希
「ふふっ。本当はすっごく繊細で優しくて
実は純粋なんです。
私と付き合うまで、キスしたことも無かったんですよ?信じられないでしょ?」

修二
「うっせぇ」

美希
「修ちゃんは、人の痛みを知って、寄り添ってくれる人。
私の事、ダメな所も全部丸ごと包んで愛してくれる。愛されてるなぁ幸せだなって。この人とならずっと一緒にいたいって思ったんです。
だからプロポーズしてくれた時は、本当に…うっ…嬉しくて…」

修二
「えっ?ちょっと美希?どうした?え?なんで泣いてんの?」

美希
「ごめん…なんか思い出したら嬉しくて…私さ、男運無かったじゃん?だからこんな幸せな日が来るなんて想像もしてなかったの…」

修二
「ああ、あのクズ男な?美希は優しすぎるんだよ」

美希
「修ちゃんだって優しいじゃん!私が元彼の作り話信じて風俗で働こうとしたら、止めてくれた」

修二
「それはさすがに止めるだろ…
それに、俺は別に優しく無いよ。ただ、美希の事が大事なだけ」

美希
「修ちゃん…」

修二
「美希…」

弥生
「ふふっ」
美希
「あっ!ごめんなさい私ったらつい…弥生さんの前だったのに」

弥生
「いいえ。仲良き事は美しきかな
お二人は本当にお互いを大切に思ってらっしゃるのが伝わりました。明日の式が楽しみです。
あっ、足痺れてないですか?
あと少しだけなのですが明日の式のお話を続けても良いですか?」

修二
「大丈夫です。お願いします」

美希
「お願いします」

弥生
「では…
明日は10時から式を開始致します。
お着替えやお化粧などの準備がありますので、春乃様、4時間前の6時に、こちらへお迎えにあがります。
普段お使いのメイク道具などまとめておいてください。
少し早い時間になりますが、よろしくお願い致します」

美希
「はい。分かりました」

修二
「あの…俺は?」

弥生
「春乃様のお支度が終わりましたらお迎えにあがりますので、式の1時間前ぐらいにはこちらのお部屋にいていただけますか?

もしご希望でしたら、お支度の準備を見ていただく事も出来ますが…」

修二
「いえ!本番の楽しみにしておきます。
美希の白無垢姿なんて、初めて見るので。きっと…いや、間違いなく、とても綺麗だと思いますけど…」

美希
「もう!修ちゃんたら…///
私も、修ちゃんの袴姿…楽しみにしてるね」

修二
「おう」

弥生
「お部屋には浴衣やタオルなど
色々ご準備しております。何か足らない物がございましたらなんなりとお申し付けくださいませ。

大浴場も天然で湧き出た温泉となっております
混浴もございますのでお二人で入っていただけますよ。
それからお夕食は、この村でとれた食材の懐石をご用意しております」

美希
「あっ、あの…」

弥生
「はい。なんでしょうか?」

美希
「あの、食事と温泉付きとは聞いてたんですけど、こんなに豪華な旅館とは思わなくて…式のお金も、正直驚くほど安かったし、本当にあの金額でここに泊まっちゃって良いんですか?
もしかして、あとで物凄い金額請求されたり…」

弥生
「えっ?」

美希
「あー。ごめんなさい!
あの、弥生さんの事疑ってるとかそういうんじゃないんです!
弥生さん見るからに良い人そうで嘘とかつけなさそうだし…
ただ私、そういう一見良い人そうな人達に散々騙されて来たので…」

修二
「ほんと苦労してきたもんなーお前。誰でもかんでも信じ過ぎなんだよ!
こんな純粋な生き物がこの世に存在するのかってほんとに心配になる…」

美希
「だって!次こそは!って思っちゃうんだもん…
それに出逢った人みんなを疑いたくない…」

修二
「美希…」

弥生
「あのー…豪華…なんですか?」

修二
「えっ?」

弥生
「ああ。すみません。
私、この村を出た事が無くて…
温泉もこの場所も、生まれた時から当たり前にある物なので…」

美希
「豪華ですよ?とっても!
芸能人とかそれこそセレブとかそういう人が泊まる様な…
私、こんな所泊まれるなんて、正直まだ、信じられなくて…」

弥生
「あっ!ご質問の件ですが、追加の費用は一切いただきませんので、どうぞご安心ください」

美希
「本当に良いんですか?」

弥生
「はい。あっ、ご心配なら契約書書きましょうか?
手書きで、印鑑も持っていないので私の拇印(ぼいん)になりますが…」

修二
「いえ!その必要はありません。
弥生さんが人を騙せるような方で無いのは、私もこうやってお話していてわかりましたから」

弥生
「信じていただきありがとうございます。
ですが、ご不安なまま式を迎えていただくのは私も不本意ですから…
んー、あっ!…あの、遠山様」

修二
「はい。なんでしょうか?」

弥生
「これは本来、お客様にはお話しない事なんですけど…春乃様のご不安が少しでも和らぐのであれば、特別にお話して差し上げようと思うのですが、よろしいでしょうか?」

美希
「なんですか?」

修二
「話して大丈夫なのであれば、ぜひお願いします。俺も知りたいです」

弥生
「では失礼して
実はこの村には、こういった式とは別に、大きな財源があるんです。
村の経済はその財源だけで充分ですので、式を挙げる方に関しての費用は最小限に抑えて行わせていただく事が出来ます」

修二
「別の財源…もしかして金脈や埋蔵金でも?」

美希
「えっ?そうなんですか!?」

弥生
「埋蔵金…
とても夢があるお話ですね…でも、残念ながら違います」

修二
「……」 

弥生
「そうですねー。いわゆる観光業と販売業といった所でしょうか」

修二
「観光業と販売業…」

弥生
「はい。この村の人形は特殊な製法で作られており、この村でしか見る事が出来ません
人形のメンテナンス費用に使用する為、入村料と拝観料をいただいております。

遠山様や春乃様がここへお泊まりいただけるのは
祝言へのお祝い…
まあいわゆる、式をあげる方の特典と思っていただければ」

美希
「なるほど…
色々お話してくださってありがとうございました」

弥生
「ご安心いただけましたか?」

美希
「はい。お話しにくいことまで教えていただいて、ありがとうございました」

弥生
「いえ。遠山様も?」

修二
「はい。もちろんです」

弥生
「それなら良かったです。
村の財源なんてつまらないお話をしてしまい、大変申し訳ございませんでした」

美希
「いえ。弥生さんの誠実さに触れる事が出来て、改めて、ここであげる明日の式がとても楽しみです。どうぞよろしくお願いします」

弥生
「そう言っていただけてとても嬉しいです。
私はお食事が終わりましたら離れにおります。
今夜はこの旅館にはお二人しかおりませんのでどうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ。
それでは、夕食の準備をいたしますので、1度、失礼致します」


~数時間後~

〈修二と美希の部屋 〉

■食事が終わり、温泉にも入り終え、部屋に戻って布団の上で座っている二人

修二
「いやー!食ったぁ!この村ほんとすげぇ。食事も温泉もほんと最高だったなぁ」

美希
「ほんとだよねー。特にあのお肉!口の中に入れた途端にとろーって一瞬で溶けちゃった。感動した~」

修二
「温泉から戻ってきたら布団も敷いてあるし、ほんとに至れり尽くせりだな。
まさかこんな辺鄙(へんぴ)な村でこんな豪華な食事食えるとは思ってもみなかった
気遣いも出来て、ちょっと感情読みにくいとこもあるけど美人で、凄いなあの、弥生って人」

美希
「んっ!ちょっと妬ける…」

修二
「ん?やきもち?俺には美希が一番だよ」

美希
「修ちゃんたら…///あっ…あのね?修ちゃん」

修二
「ん?なーに?美希」

美希
「本当に良いんだよね?私で」

修二
「えっ?」

美希
「修ちゃんモテるじゃん!カッコイイし、優しいし!あたしなんかより、もっと素敵な人たくさん…」

修二
(遮って)
「美希!」

美希
「!?」

修二
「俺には、美希しかいない!
俺が世界中で、護りたい、一生一緒にいたいと思えるのは美希だけなんだ…なあ…美希?」

美希
「ん?」

修二
「あらためて言わせて?俺の…奥さんになってくれませんか?」

美希
「…はい」

修二
「すーぐ泣く…」

美希
「だって…」

修二
「美希、愛してる。必ず幸せにする…」

美希
「うん。私も…修ちゃんの事、幸せにするっ”…」

修二
「あっ!明日早いんだよな?そろそろ寝るか」

美希
「え?もう、寝ちゃう…の?」

修二
「え?寝ないの?」

美希
(すねて)
「…もういい…
!?」


■修二、美希を布団の上に押し倒す
 
修二
「良い眺め。少し乱れた隙間からのぞく肌がほんの少し紅く色づいて…まるで俺の事誘ってるみたい」

美希
「修ちゃん…///」

美希
「今触れたら俺、寝かせてやれる自信ないから我慢してたんだけど…まさかお前から誘ってくれるなんてなぁ…」

美希
「えっ?ちょっと…待っ…」

修二
「待たない。お前から誘ったんだから、責任取ってもらわないと…」

美希
「え?私、誘ってなんか…」

修二
「だーめ。なあ?結婚前夜、一晩中、愛、確かめ合おうな?美ー希♡」



<翌日の朝>
■予定通り、二人の部屋に迎えに来る弥生

弥生
「失礼いたします。おはようございます春乃様、お迎えにあがりました」

美希
(あくび)
「弥生さん。おはようございます。修ちゃん。行ってくる。またあとでね」

修二
(あくび)
「おう!またあとで」

弥生
「美希様、そちらのお荷物お預りしますね。では、こちらへどうぞ」

■美希の荷物を持ち、別室へ移動する弥生とその後をついていく美希
■二人の気配が無くなったのを確かめた修二

修二
(あくび)
「行ったな。さあて…今のうちに…」

■修二、浴衣から服に着替え、旅館の外に出ていく


<旅館の一室>
弥生
「どうぞ、こちらでございます」

美希
「うわぁー。凄い数のお化粧道具ですねー。これは…口紅?見た事ない色がたくさん…綺麗」

弥生
「京都の芸子さんや舞妓さんが好んで使う化粧品のメーカーがあるんです。古くからの友人で、無償で提供していただいてます。あ、あと白無垢もそちらに並べましたのでお選びください」

美希
「うわぁーすごい!さっきまですっごく眠かったのに、一気に目が覚めちゃった!」

弥生
「環境が変わったからあまり眠れませんでしたか?一応古くから馴染みの布団の老舗メーカーの寝具なのですが…」

美希
「あっ!いえ…そっちの問題ではなく…」

弥生
「えっ?あっ…ああ…なるほど、そういう事ですか…野暮な真似をいたしました。申し訳ございません」

美希
「いえ!あの…全然!弥生さんは、何も悪くないですから…⸝⸝⸝」

弥生
「お化粧も、着物もどうぞお好きなのを選んでください」

美希
「あっ!あの…」

弥生
「はい。なんでしょうか?春乃様」

美希
「弥生さんから見て、私たちってどんな風に見えてますか?」

弥生
「え?」

美希
「修二は、私が良いって言ってくれてるけど…正直不安なんです。私じゃ、不釣り合いなんじゃないかって…」

弥生
「春乃様…私には、お互いを思い合っているとても素敵なお二人に見えてますよ
それに…」

美希
「それに?」

弥生
「春乃様は見た目がかわいらしいのはもちろん。お心もとてもお美しい、素敵な女性だなと思います。
あの…少しだけ意地悪な質問をしても良いですか?」

美希
「なんですか?」

弥生
「もし、遠山様が嘘をついていたとしたら、春野様はどうされますか?」

美希
「嘘…」

弥生
「はい。遠山様が特別という事では無く、人は大なり小なり嘘をつく生き物ですから」

美希
「そう、ですね…もし私なら…嘘をつかないといけなかった理由を聞きますかねー」

弥生
「理由?」

美希
「はい。嘘って、ついてる方(ほう)も結構苦しいじゃないですか?だから、そうまでしても嘘をつかなかればいけなかった理由を聞きますかね」

弥生
「なるほど…」

美希
「…でも」

弥生
「でも?」
美希
「私は、信じてます。修ちゃんの事」

弥生
(聞こえない様に)
「こんな素敵な人が、なんで…」

美希
「ん?弥生さん、泣いてる?」

弥生
「すみません。あまりにも、春乃様のお心が美しくて、感動してしまいました」

美希
「美希でいいですよぉ。心が美しいなんて、そんな風に言われたの初めてです。ありがとうございます」

弥生
「あの…」

美希
「はい?」

弥生
「私、個人からも、ひとつお祝いを差し上げたいのですが…」

美希
「え?そんな…悪いです」

弥生
「いえ。私が、美希さんにあげたいんです。どうかもらっていただけませんか?お願いします」

美希
「弥生さん、そんなに必死に…わかりました。では、いただきます」

弥生
「ありがとうございます!
あの…この世に1つしか無い物なので、遠山様にはこの事秘密にしていただけませんでしょうか?隠し事を美希さんにさせるのはとても心苦しいのですが…どうかこの通りです」

美希
「ああ…弥生さん。頭をあげてください。わかりました。修ちゃんには言いません。約束します」

弥生
「ありがとうございます。あっ!もうこんな時間!急がないと。
では、心を込めて、精一杯準備させていただきますね」


〈村のとある場所 〉
■走ってくる修二
■周囲を警戒しながらある場所で立ち止まる


修二
「確かここら辺に…」

■修二、土の中に埋めたスマホ入りの袋を取り出す

修二
「よぉし!あったあった!うん。袋に入れて埋めてたから無事だな。
どれどれ…うわっ!履歴すげぇ事になってる…んーとまずは…」

■電話をかけまくる修二

修二
「もしもし?ああ。ちょっと仕事でさぁ…ごめんて。そ。例の村。
え?結婚?まあするけど…
あんなの、ただの紙切れ一枚の契約だろ?別にお前と別れる気無いから安心して?ところで今月分、もう振り込んでくれた?ほんと?愛してる。あっ!仕事の電話入った。うん。じゃあまた連絡する


あーもしもし?ん?別にー?
別にお前じゃなくても俺はいいんだよ。お前が俺とどうしても一緒にいたいっていうからいてやっただけだし?それじゃあまた…
ん?何慌ててんの?ふーんどうしても俺が良いの?じゃあ言葉じゃなくて形で示せよ。
はっ?そんなの風俗でも何でも行きゃ稼げるだろ?じゃあな。まとまった金出来たらまた連絡して?それまでは連絡して来ても一切出ねぇから。じゃあな。


あーもしもし?
はっ?子どもが出来た?俺の?へぇー。それさー?ほんとに俺の子って証明出来んの?
はっ?だってお前同じ時期に俺以外ともしてんじゃん?俺が気づかないとでも思ってたわけ?あーあ。俺、信じてたのに…すっげぇ傷ついた…もう信用できねぇよ…じゃあな…さようなら」


■電話を切る修二


修二
「結局この世は金とルックス…それと快感を与えられるテクニック。それさえあればなんでも手に入る。見た目に惑わされ、嘘を見抜けずに騙されるてめぇらが悪りぃんだよ…ご愁傷様♡」

■勝ち誇った様に高笑いする

修二
「さぁて…本当に愛する人の元へ、戻りますか」


<夫婦杉の前で行われる式>

美希M
弥生さんの進行の元
式は、淡々と、そしてどこか厳かに進んでいった
慣れない和服に少し息苦しさはあったけど、目の前の夫婦杉から感じる力なのか
それとも袴を履いた修ちゃんがいつも以上にカッコよく見えるからだろうか
知らず知らずの内にいつも以上に背筋が自然と伸びている自分がいた

修二M
旅館に戻ると、照れくさそうにこちらを見上げる白無垢姿の美希がいた
唇にはいつもより少し濃いめの紅(べに)がひかれている
普段とは違う彼女の姿に思わず唇を
貪りたくなる衝動を抑え、今なんとか式を終えた

弥生
「お二人は今、晴れて正式に夫婦となりました。どうか、これからもお二人の幸せが永久(とわ)に続きますように。それでは、私はこれで」

美希
「ありがとうございました」

修二
「ありがとうございました」

■弥生の姿が見えなくなったのを確認して


美希
「なんか不思議…本当に私たち、夫婦になったんだね」

修二
「ああ。だな。で?これが、言い伝えの夫婦杉」

美希
「うん。緊張…する」

修二
「俺たちなら大丈夫だ…それに…もし、万が一光らなかったとしても、俺が美希を愛してる事も、美希が俺の奥さんな事も、何も変わらない」

美希
「修ちゃん…うん。私も。ねえ?もう片方の手、繋いでくれる?」

修二
「おう」

美希
「じゃあ…触る、ね」

修二
「いつでも」

美希M
私たちが触れると夫婦杉はまばゆいぐらいの光を放った
それはつまり神様から、真実の愛だと認められたという事
神様なんて信じて無いけど…
今日ぐらいは感謝してもいいかなって思った
私たちは嬉しくて…二人で抱き合って…泣いた

修二
「光った…な」

美希
「うん」

修二
「ずっと、一緒にいような」

美希
「うん」

修二
「お前、着替えあるだろ?俺、ちょっとタバコ吸ってから戻るな」

美希
「わかった。修ちゃん。またね」


<旅館>
弥生
「失礼します。ああ。美希さん。お着換え終わりましたか?」

美希
「はい。今日はありがとうございました」

弥生
「いえいえ」

美希
「杉、夫婦杉…ちゃんと光ってくれました…」

弥生
「それは良かったです。では、私からのお祝いをお渡ししたいのですが…その…」

美希
「もちろん修ちゃんには何にも言ってません!」

弥生
「実は…これ、なんです」

美希
「…えっ?何…これ…」

弥生
「この村宛てに送られてきました。お見せするかとても迷ったのですが…美希さんには、本当に、幸せになって欲しいと、そう思ったので…」

美希
「なんですか?この大量の女性との2ショット写真…修ちゃんはホストだからこれぐらい…えっ…」

弥生
「私は、ホストという仕事は、よくわかりません。でも遠山様は…美希さんにこれだけたくさんの嘘をついています。これだけは言えます。愛もなく女性を抱ける。そんなあの人に、美希さんは相応しくない。あんな人といても、幸せには…」

美希
「これがプレゼントですか?
馬鹿にするのもいい加減にしてください!こんな、どこの誰が送って来たかもわからない物。私は信じません!
何が幸せかは、私が決めます。
弥生さん、良い人だと思ったのに…失礼します!」

弥生
「待って!あなたには!心の美しいあなたには…生きていて欲しいんです!お願い…お願いします」

美希
「弥生さん…それ、どういう…意味、ですか?」


<村の中の竹藪>

修二
「あー。ほんと助かったわ。生でやって良いっていうからあやしいなって思ってたけど…
まさか俺をゆすろうとするなんてなぁ…
俺をはめようなんざ…馬鹿な女。
ああ。いいよ、好きにして。
まあ、顔も、あっちもそんな悪くねぇし…割と良い金の成る木になると思うぜ?」

弥生
「ああ遠山様…ここにいらっしゃいましたか」

修二
「!?」

■慌てて電話の電源を切る修二

弥生
「それ…なんですか?」

修二
「あー。これ?これは…ぐ、偶然拾ったんですよ、ここで。以前、観光に来られた方のですかね?」

弥生
「そう…ですか。また、嘘。ほんっと…救えない人」

修二
「え?」

弥生
「ところでこのお名前、見覚えありませんか?」

修二
「ん?んー。知らない…ですね」

弥生
(ため息)
「そう、ですか…やはりあなたは…そう、言いますか。せめて謝罪の一つもあればとも思ったんですが…」

修二
「ん?謝罪?
あっ!そういえば杉、光りましたよ!美希のやつ、泣いて喜んでて。ほんっと可愛かったなぁ」

弥生
「へぇー。人は騙せても…真実を見抜く賢さは持ち合わせてないんですね」

修二
「はっ?弥生さん、さっきから何言ってるんですか」

弥生
「杉、光ったって意味ないですよ?だってそれ、私があなたみたいなクズを釣るために作って流した、偽物の都市伝説ですから♡」

修二
「はっ?クズ?えっ?」

弥生
「本当の村の言い伝えはこうです…

遠い昔ある所にとても仲睦まじい夫婦がいました
やがてその二人の間に子供が生まれました
ですが
二人の幸せに嫉妬する村人の一人が
川に連れていき事故を装い溺れされてしまいました
こどもを亡くした二人は長い間悲しみに打ちひしがれました
それでもその夫婦はお互いを支え合い
長い年月をかけて、自分の子どもにそっくりな人形を作りました」

修二
「ん?子供が死んだ?人形を作った?弥生さん、一体、何の話…」

弥生
「でも悲しい事に心労でその夫婦は亡くなってしまいました。
二人の愛情が人形に伝わったのでしょう
その人形には不思議な力が宿りました
なんと夫婦が離れ離れになると
その寂しさから
人間を生きたまま人形にしてしまうのです」

修二
「!?」

弥生
「だからね?夫婦になったあとの二人は
この村では半日以上離れ離れになってはいけないのです。
離れ離れになったら呪いがかけられ人形にされてしまうから
それが、この村に伝わる本当の秘密です」

修二
「…嘘…だろ?」

弥生
「もちろん
信じるか信じないかはあなたにお任せしますよ?
まあ、信じなかったところで、結果は変わりませんけど
ああそうだ!
そういえば美希さんの姿を見かけていませんがどうされたんですか?」

修二
「えっ?旅館に着替えに行ってそれっきり…!?」

弥生
(挑発する様に)
「二人が離れ離れになってから、何時間経ったと思います?」

修二
「はっ?」

弥生
「美希さん、今一体どこにいるんでしょうね?」

修二
「はっ?ふざけるな!美希をどこへやった!何か知ってるなら教えろ!うっ!」


■弥生に掴みかかろうとする修二
■胸を抑えて苦しみ出す


弥生
「あなたは約束を破った…そして嘘もつき続けた…せめて一言謝罪があればと思ったのですが…クズはどこまでもクズでしたね…」

修二
「く、るしい…なんだ、これ…ふ、ざけ…んな…」

弥生
「これで…こいつに追い込まれ命を絶ったあの女(人)の魂も、少しは救われるでしょうか。さようなら…クズ野郎」

■修二、人形になる

<外と村の狭間の鳥居>
■誰かと電話をしている美希

美希
「どう?これで本当だってわかってくれた?
ばっちり動画に撮れてるでしょ?あなたの所にだけ売ってあげる。みんなが真実を知りたがっていた都市伝説の真相。どれぐらい登録者増えるかしらねぇ?
今知ってるのはあなただけだけど…あなたの気持ち次第では別の人に教えてあげようかなって思ってるの。どう?

ほんと?賢い人、大好きよ♡」

■電話を切って

美希
「はぁー
ほんと男ってちょろい♡
ちょっとかわい子ぶればスグ騙される。
こんな凄いネタ、あんたなんて小物に売るわけねぇだろ…バーカ

とりあえず金だけ振り込ませて…あとは…まあ文句言ってきたらあいつらに片付けてもらえばいっか。痛い事されたらさすがに文句も言えないよね。
ああ。念の為マイクロのカメラ髪に仕込んどいて良かったぁ。
ふふっ。私って天才」

弥生
「結局お前も…そっち側のニンゲンかっ!!!!!」

美希
「!?」

■美希、弥生に殴られ気絶する
■弥生に人形村に連れていかれ、人形にされた美希


〈 人形村、たくさんの人形が飾られている村の一角〉

弥生
「人形村
この村には毎年とてもたくさんの数の人形が飾られる
あまりにも人間にそっくりな精巧な作りなので、見るものは驚き本当に人形なのかと疑う程だ

それもそのはず
それらは全て、元は人間
この村は足を踏み入れた物の愛を試し
それが偽物だと判断したら
生きたまま人形にしてしまう村なのだ

自分の意思では体を動かせない
誰にも声は聞こえない
でも
感覚は残っている
全て…

えっ?怖い?

何言ってるんですか?
この村が本当に怖いのはここからですよ?

人形にされた元人間達は村中に飾られる
飾るのは観光客に観て楽しんでもらう為…
ではなく
商品をきちんと、品定めしてもらう為

ある特別な趣味を持った方々だけが
気に入ったこの村の人形を購入する事が許されているのです

そしてこの人形の心の声はある機械を付けるとあら不思議
その機械を通してだけ聞こえる様になる
まあ、それ、私が開発したんですけどね?

ん?なんです?
特別な趣味って何かって?
え?知りたいですか?
本当に?
知ったら後悔すると思いますよ?
知りたいの?
しょうがないですねぇ…
そうですねぇ…ヒントはぁ…

全ての感覚は残ったまま…
声が聞こえる様になると、より愉しめる…ですかね? 」

■弥生、無邪気に笑う

修二(心の声)
「なあ?やめてくれ!俺は買われたくない!
そんな悪趣味な連中に痛めつけられるなんてごめんだ!

!?
金か?
いくらだ?いくら払えば良い?
お前が欲しい金額言ってみろ
全額、今キャッシュで出す!
それとも抱いてやろうか?
お前、どうせ男いないだろ?
なあ!助けてくれ!頼む!なぁ!ここを開けろよ!なぁ!おい!ほんとは聞こえてんだろ?

おい!おい!こっから出せ!おい!女だからって容赦しねぇぞ!おい!さっさと出せ!おい!」

美希(心の声)
「なんなのよ!もう!ちょっと!乱暴に扱わないで!
んっ!んっ!
なんで?なんで私の身体動かないの?
人形?何馬鹿な事言ってんの?
ねぇ!ねぇ!お願い助けて!助けて!
変態のおもちゃになる気なんて無いんだから!私は金持ちでイケメンな実業家と結婚して玉の輿にのるのよ!
今すぐ出して!出しなさいよこの腹黒女!!!」

■弥生には人形になった彼らの声は聞こえない

弥生
「ええ。ええ。そうですかー。なるほど…

なーんて。
きっと何か文句や思いつく限りの罵詈雑言並べ立ててるんでしょうけど…なーんにも聞こえ無いんですよねー私には
まっ!お互いの本性を知らないまま人形になれて良かったんじゃないですか?
人形同士、声は聞こえないですから…」

修二
「おい!さっさと開けろ!今すぐ開けねぇとぶっ殺すぞ!!!!」

美希
「ねぇ!お願い!助けて…私、まだこんなところで死にたくない…助けて…」

弥生
「因果応報。
やった行ないは、必ず自分に返ってくる
それがどんな形であれ…

さぁ、クズのあなた達には
一体何が返ってくるんでしょうねぇ

ちゃあんと買って貰えるように、見た目だけでも、綺麗にして差し上げますね?」

■人形になった彼らを村のショーケースに飾りながら楽しそうに歌っている弥生

弥生
「あかりをつけましょぼんぼりに~
おはなをあげましょもものはな~
ごにんばやしのふえたいこ~
きょうは楽しい
(ひなまつりの部分だけハミング)

■弥生の不気味な笑い声


シナリオの海

七海あおの声劇台本のサイトです

0コメント

  • 1000 / 1000