天使の涙
【人物紹介】
優音(ゆね):余命宣告をされた24歳
無邪気で明るく好奇心旺盛で音哉を振り回すが、実は繊細で病院では良い子の天使と呼ばれている。
音哉(おとや):死のうとしたところを優音にみつかり誘拐犯になってしまった青年
30歳。最初は優音に振り回されていたがそのうち優音の本音が知りたくなり…
……………………………………………………
上演の際にお使いください(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
『天使の涙』
優音︰
音哉︰
.........................................
タイトル
『天使の涙』
【STORY】
SE:金網をよじ登る音
■病院の屋上のフェンスをよじ登っている青年
■それを見ている1人の少女
音哉
「もうすぐだ…もうすぐで俺は自由になれる…」
優音
「なにやってるの?お兄さん」
音哉
「うわっ!なんだよ。俺は死にたいんだ!止めるな!」
優音
「うん。止めない。死にたいなら別に死ねば良いんじゃない?」
音哉
「えっ?あー。止めないのか…じゃあ…」
優音
「待って!」
音哉
「なんだよ!今好きにしろって言ったろ…」
優音
「気が変わった!ねえ?どうせ要らないならさ…その命、私にちょうだい?」
音哉
「はっ?」
優音
「お兄さん、私の事誘拐してよ?」
…………………………………………………
<車の中>
■運転中の音哉。助手席に座る優音
優音
「私は優音。漢字だと…優しい音って書くの。ねえ?お兄さん?お兄さんにも、もちろん名前あるんでしょ?
教えてよ。お兄さん。て、なんか他人行儀みたいで寂しいじゃん」
音哉
「俺とお前は1mmの間違いもなく他人だけどな?ほら、危ないからシートベルトしろっての」
優音
「ねーえ。早く教えてよー」
音哉
「俺の言葉はスルーか!お前マイペース過ぎないか?あーもう!よいしょっと。これでシートベルトはOKだな」
優音
「お前じゃない!優音!ちゃんと名前で呼んでよ!」
音哉
「はいはいわかったわかった。優音。な」
優音
「もう!ドキッとするから急に呼び捨てにしないで!」
音哉
「どっちだよ!おまえが名前で呼べって言ったんだろ!」
優音
「だって…急にそんな優しい声…出すから…」
音哉
「あれ?あれあれ?お前もしかして今、名前呼ばれて照れてんのか?」
優音
「べ、別に照れてないっ…」
音哉
「へー。いきなり会ったばかりの俺に、私の事誘拐して!なんて頼む頭のいかれたやつって思ってたけど…案外かわいいとこあんじゃん。それに…」
■優音に顔を近づけて顔を覗き込む音哉
優音
「な…なによ?」
音哉
「よく見たらお前、かわいい顔してる」
優音
「ちょっと…顔、近い…そんなに顔のぞきこまないでよ…ほら!ちゃんと前見てよ危ないからっ…」
音哉
「はいはい。照れちゃってかわいいなー優音はー」
優音
「もう!からかってるでしょ私の事!」
音哉
「ぜーんぜん。本当に心から可愛いって思ったから言っただけだ」
優音
「もう!どうだかっ」
音哉
「優しい音でゆねかー。良い名前だな」
優音
「えへへ。ありがとう」
音哉
「俺の名前にも、お前と同じ文字が入ってる」
優音
「え?同じ字?」
音哉
「そっ。俺の名前は…んーと…あっ、俺のカバンの中の財布出して?」
優音
「なんで財布??」
音哉
「いいからっ。皮で出来てるやつ、あるだろ?」
優音
「んーと。あっ!これ?」
音哉
「そう。当たり。中に免許証入ってるから見てみ?」
優音
「まどろっこしいなー。口で言えば良いのになんでわざわざ免許証なの?って…えっ?ウソ!これ、本当に?ほんとのほんと?」
音哉
「そっ。正真正銘、俺の本名。な?同じ字が入ってたろ?俺も今聞いてびっくりした」
優音
「音哉かー。へー。アイドルみたいでかっこいいじゃん。名前だけはさ」
音哉
「それ…言うか?」
優音
「うそうそ。かっこいいですよ?音哉さん?」
音哉
「うわっ。棒読み…気を使われると余計悲しくなるって…」
優音
「ほんとだって!音哉かっこいい!」
音哉
「はいはいありがとう」
優音
「ねー、そんなカッコイイ音哉は、
なんで病院の屋上に不法侵入してまで死のうとしてたの?」
音哉
(優音の質問に飲み物をむせてから)
「おまえずいぶん直球だな。もっとオブラートに包むとか無いのか?」
優音
「オブラート?あー薬を包むやつ?なんで薬じゃないのにオブラートに包まなきゃいけないの?」
音哉
「遠慮とか配慮とかをお前に求めた俺が馬鹿だった…」
優音
「ねえ?この車、さっきからどこに向かってるの?」
音哉
「ほんとマイペースだなー。さあどこだろうなー。
ヒントは…誰にもみつからないで二人きりになれる場所?かな…」
優音
「え?誰にもみつからないでふ、二人きりになれる場所?えっ、はじめて会ったばかりでそれは…さすがに…心の準備が///」
音哉
「なんで顔真っ赤にして照れてんだよ!あっ、もしかして今お前…なんか変な事想像したな?」
優音
「えっ?べ、べつに変な事なんて想像してないし?」
音哉
「ふーん?ほんとに?」
優音
「ほんとは…ちょっとだけ…」
音哉
笑
「お前って素直だなー。
残念だけどそこじゃー無いんだよなー。まあ楽しみにしてろよ、きっとお前が一度も見た事無いものを見せてやるから」
優音
「別にっ、残念なんて思ってないからっ///」
音哉
「はいはい。そういう事にしといてやるよ」
優音
「なんか音哉、私に言われてなりゆきで誘拐してるはずなのに楽しそう。さっきまで死のうとしてたくせに…」
音哉
「あー。正直浮かれてるかもなー。こんな素敵な女性を助手席に乗せてドライブ出来るなんて、ほんとに久しぶりだからなー」
優音
「えっ?素敵な女性って、もしかして私の事?」
音哉
「他に誰がいるんだ?」
優音
「えへへー。素敵な女性なんて言ってもらえて嬉しいなー」
音哉
「怒ったり喜んだりコロコロ表情変わるなーお前。見てて飽きないわ」
優音
「それ?ほめてる?」
音哉
「褒めてる褒めてる。俺にとっての全力の褒め言葉だ」
優音
「なら良かった」
音哉
「なあ優音?」
優音
「ん?なーに?」
音哉
「お前何がしたい?やりたい事、食べたいもの、何でも言ってみろ。俺が叶えられる範囲なら叶えてやるよ」
優音
「ほんと?何でも良いの?」
音哉
「ああ。ってか、その為に俺に誘拐させたんだろ?」
優音
「えへへ。当たりー!さっすが音哉ー!
じゃあねー」
■音哉に耳打ちする優音
音哉
「はっ?そんなんで良いのか?」
優音
「そんなのって言わないでよ!
何でも良いって言ったのはそっちでしょ?
それに、音哉にとっては普通の事かもしれないけど、私には全部初めてなんだから…」
音哉
「ふーん
なるほどー。じゃあ俺は、その初めてをいただける訳だ。
それはとてもとても光栄至極にございます。お嬢様」
優音
「ふふっ
そうよ?ありがたく受け取りなさい?私の初体験」
少し時間が経って…
■優音、つばを呑み込む
優音
「これが噂の…」
音哉
「ああ。そうだ」
優音
「どうしよう…緊張する…」
音哉
「大丈夫だ!なんかあっても俺がついてるから。安心しろ」
■クレープとタピオカミルクティを人生ではじめて食べる優音
優音
「おいしーい!!!!こっちも…んーおいしい!!!!!ねえ?おいしすぎない?こんなにおいしい物がこの世界にはあるの?いくらでも食べられちゃう気がする」
音哉
「笑
なんの変哲もないただのバナナチョコクレープとタピオカミルクティをそんなにおいしそうに食べるのは…きっと世界中どこを探してもお前だけだろうな」
優音
「話では聞いた事あったんだけど、まだ1度も食べた事無くてさ…看護師さんとかみんなおいしいおいしいって言うから、一度で良いから食べてみたかったの!」
音哉
「そんなに感動してもらえると奢りがいがあるよ。まあ、その初めてが車の中ってのがどうにも味気ねぇけどな」
優音
「ううん!病室以外でご飯食べられてるなんてむしろ最高!!!
本当に本当においしい!こんなおいしいもの生まれて初めて食べた!病院の食事ってどれも味が薄くて食べた気が全くしないんだもん」
音哉
「病院食と比べたら、たいていの物が美味いだろーな…」
優音
「ん?なんか言った?」
音哉
「いや?なにも?」
優音
「そっ?なら良いんだけど…あっ!」
音哉
「どうした?」
優音
「音哉が食べてるそれってなーに?」
音哉
「これか?ハンバーガーとポテトだな」
優音
「ハンバーガーとポテト!?…って…何?」
音哉
「え?なにって…マジか
んー。ポテトは正式に言うとフライドポテト。切ったじゃがいもを油で揚げて塩とかまぶして味を付けたものだな。で、ハンバーガーはハンバーグとかレタスとか具材をパンで挟んだものかな?食べてみるか?」
優音
「良いの?」
音哉
「ふっ。目がキラキラしてる…もしかしてこれも…」
優音
「うん!食べた事無い!初めて食べる!」
音哉
「ポテトはそのままでも塩味は付いてるけど、ケチャップつけて食べるのもうまいぞ?
はい。落とさない様に気をつけて持てよ?」
優音
「うん!ありがとう。これがみんながよく食べるって言ってたハンバーガーとポテトかー。いっただきまーす」
■ハンバーガーとポテトを交互に食べて
優音
「……」
■声にならない優音
音哉
「どうした?大丈夫か?」
優音
「えっ?何これ…」
音哉
「あー。口に合わなかったか…いいよ俺が食うから無理して食べなくても」
優音
「めちゃめちゃおいしー!!!」
音哉
「そっちかー!」
優音
「ん?何か言った?」
音哉
「いや、何でも無い。俺の事は気にするな…」
優音
「そっ?あー、ほんとおいしー!」
音哉
「そんなに気に入ったならもっと食べても良いぞ?」
優音
「ほんとに?じゃあもらうー」
■ハンバーガーとポテトをおいしそうに食べる優音
音哉
「なあ?優音?」
優音
「ん?なーに?音哉」
音哉
「お前のやりたかった事ってほんとにこれで良いのか?さっきから食いもんばっかじゃねーか。もっと遊園地行きたいとか水族館や動物園行きたいとか、カラオケ行ってみたいとか他にも色々あるだろ?」
優音
「良いの。だって…叶いもしない願いをいくつも持ってても、むなしいだけだもん。
私が本当に心から叶えたいのはずーっとたった1つだけだから…それは音哉には叶えられないし、そもそも願ったところで絶対叶わないって、わかってるんだけどね」
音哉
「優音」
優音
「それに、遊園地とか水族館なんてまるでデートみたいじゃない?
音哉、私の彼氏になってくれるの?」
音哉
「お前、話し飛びすぎじゃないか?」
優音
「キス、する?」
音哉
「お前なー、大人をからかうなっ」
■優音、音哉の頬にキスをする
音哉
「ちょっ、いきなり何するんだよっ!」
優音
「えへへー。私のファーストキス、音哉にあげちゃったー」
音哉
「残念でしたー。ファーストキスっていうのは唇にするもんなの。頬にしたキスはファーストキスにはなりませーん」
優音
「えっ?そうなの?じゃあ…してよ」
音哉
「はっ?」
優音
「キスってドキドキして心臓が止まりそうになるんでしょ?
ファーストキス。音哉が私から今すぐここで奪ってよ」
音哉
「はっ?何言って…」
優音
「そしたら音哉、私の事忘れられなくなるでしょ?」
音哉
「もしここでキスしたら、もう止まらなくなってそれ以上しちゃうと思うけど、それでも良いのか?」
優音
「えっ?キスの先って事?ここで?そっ、それは…ちょっと…あのっ…」
音哉
「笑
冗談だよ。そんな緊張で身体固くなってんのに、よく俺にキスを奪えとか言えたなー」
優音
「だって…」
音哉
「安心しろ、キスなんかしなくても、お前の事は忘れないよ」
優音
「えっ?」
音哉
「忘れられる訳ないだろ?
初対面の俺をいきなり誘拐犯にしたり、初めて食べるクレープやハンバーガーに目をキラキラさせて感動する女性は、世界中どこを探したってお前だけだ」
優音
「音哉…」
音哉
「なあ優音?」
優音
「ん?」
音哉
「キスは、本当に好きな人とだけするもんなの。
会ったばかりの、どこのどいつかも知らない俺に、簡単にあげて良いもんじゃないの。もしいつか、お前が本当に俺の事を好きになってくれて、俺もお前の事が好きになる事があれば、その時は…心臓が止まりそうになるほどの凄いキス、してやるよ」
優音
「音哉ってロマンチストだねー。元カノに言われた事ない?」
音哉
「別に?」
優音
「そっかー。そういうもんなのかなー。まるでドラマのセリフみたいでなんかくすぐったい」
音哉
「こういう話は子供の優音にはまだまだ早かったかなー」
優音
「子供って!私…もう24歳なんですけど?」
音哉
「はいはい…」
■あくびする優音
音哉
「でっけーあくび。はしゃぎ過ぎて疲れたんだろ。着いたら起こしてやるから寝てて良いぞ?」
優音
「私寝ちゃって話し相手いなくなったら音哉眠くならない?」
音哉
「別に普段も一人で車運転してるから慣れてるよ」
■もう1度あくびする優音
音哉
「またあくびしてるし。お前言葉と行動が全然合ってないけど?ほら、そこにブランケットあるだろ?膝かけとけ」
優音
「えっ?このキャラクター好きなの?私も大好きなの!」
音哉
「本当か?それ、かわいいよなー。俺もすげー好き」
優音
「音哉、運転気をつけてね?1日私の為に時間をくれてありがとう」
■優音が眠って
■優音の寝顔を見ながら…
音哉
「寝た…か。…一瞬だったな。赤ん坊かよっ…
確かに。眠ってる顔はほんと、まるで…天使みたいだな…」
…………………………………………………
~目的地に到着して~
〈車の中 〉
■眠っている優音を起こす音哉
音哉
「優音。ゆーね。起きろ。着いたぞ」
■優音、伸びをして
優音
「ん?着いたの?」
音哉
「ああ。長い誘拐の旅お疲れさん。
暗いから足元気をつけろよ。あと、寒いから、ちゃんとさっき買ったコート着て、マフラーも巻いてこいよ。俺、先降りてるから」
優音
「えっ、ちょっと待ってっ…」
■車から降りて伸びをする音哉
■車から降りてくる優音
音哉
「おっ、来たか。ちゃんとコート着て、マフラーもしてるなー。うん!えらいえらい」
優音
「ねえ?音哉ってさー、実はめちゃめちゃ優しいよね?」
音哉
「そうか?こんなもんだろ?」
優音
「口調や態度はぶっきらぼうなんだけど、根っこはちゃんと優しいっていうか、大事にされてるのが伝わるっていうか…」
音哉
「はいはい。今さら褒めてもなんも出ねーぞー」
優音
「もー!そこは素直に受け取ってよっ!」
音哉
「なあ?手と腕、どっちが良い?」
優音
「えっ?いきなり何?」
音哉
「ここら辺、街灯も無くて危ないから…」
優音
「じゃあ…腕?」
音哉
「ではお嬢様、私の腕におつかまり下さい」
優音
「ねえ?その時々出てくる執事キャラはなんなの?」
音哉
「別に…気にするな」
優音
「あれ?あれあれっ?」
音哉
「なんだよ?急に顔覗き込むなって///」
優音
「あー!もしかして照れ隠し?ねえ?音哉照れてるの?ねぇねぇ?照れてる?」
音哉
「うるさいっ!バカな事言ってるとこのまま置いてくぞ」
優音
「ふふっ
私に照れてくれてたんだー。なんか嬉しい」
音哉
「ほら、腕組むならさっさとしろ!マジで置いてくぞ?」
優音
「えっ?ちょっと待ってよー!えいっ!」
音哉
「うわっ」
優音
「ふーん。腕組むのってこんな感じなんだー」
音哉
「なんだ?腕組むのも初めてか?」
優音
「うん。初めてっ!なんだろっ…なんか…安心する」
音哉
「ふーん。そういうもんかねー。ほら…着いたぞ」
優音
「着いたぞ!って…なにも無いじゃん!」
音哉
「お前を誘拐したのが今日で良かったよ」
優音
「ねえ?私の話聞いてた?ただの山で、何にも無いんですけど?」
音哉
「10秒前…」
優音
「えっ?なに?」
■戸惑う優音
■優音に構わずカウントダウンする音哉
音哉
「9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。
優音、空を見ろ」
優音
「えっ??空?えっ?うっわーーーーーーーー!!!!!」
■無数の星が空から降り注ぐ
■声をあげて大喜びする優音とそれを優しく見守る音哉
音哉
「ちょうど…今日だったんだ」
優音
「すごーい!星が次から次に降ってくる!こんなにたくさん星が降ってくるの見たのはじめて!」
音哉
「だと思った。
これが、俺がお前に見せたかったもの。流れる星の群れと書いて流星群。まあいわゆる流れ星の大群だな」
優音
「すごーい!!!キレー!」
音哉
「喜んでもらえて良かった。こんな数の星、滅多に見れないからなー。よーくその目に焼き付けとけよ?
あっ、願いごとしなくて良いのか?
こんだけたくさんの流れ星があれば、もしかしたら、叶うかもしれないぞ?」
優音
「いい」
音哉
「なんで?」
優音
「だって…神様なんてこの世にいないもん」
音哉
「そっかー。星には祈らないかー。なら、遊びの時間はここでおしまいだな」
優音
「えっ?」
音哉
「もう暗い。病院へ戻ろう。みんな心配してる」
優音
「嫌だ…まだ帰りたくない…」
音哉
「いつまでもこんな所にいても仕方ないだろ?そろそろ現実に戻らないと」
優音
「お願い!あと少しで良いの!明日にはちゃんと帰る。もう少しだけ、もう少しだけで良いから…思い出作らせて…」
音哉
「言いたい事はそれだけか?お前の事情なんて俺にはなんにも関係ない。俺とお前は、そもそも出逢ったばかりの赤の他人だからな」
優音
「ねえ?どうしたの?なんでいきなりそんな冷たい事言うの?」
音哉
「ちょっと遊びに付き合ってやれば満足するかと思ってノッてやってたが、帰らないだと?誘拐犯にさせられて、1日中ガキに付き合わされて、こっちはいい迷惑だ!!」
優音
「そう。そうだよね。大人ってみんなそう…勝手に言いたい事言って、都合が悪くなったら簡単に手のひら返して…
良い子でいれば…今回の治療を頑張れば…必ず治るって…
お医者さんも看護士さんもみんな言った。
でも、お友達は…みんな死んじゃった…
今まで何人の命を見送ってきたと思う?みんな良い子だったのに…つらい治療にも耐えて最後まで頑張ったのに…結局みんないなくなった…
そして最後…あの子は心のキレイな子だったからきっと天使になったよって…
どんだけ馬鹿にしてんの!?
みんながどれだけの痛みに平気なふりをして
どれだけの涙を隠して、それでも必死に笑ってたかなんて、誰も知ろうともしない!!!
健康な子に、丈夫な子に産んであげられなくてごめんて泣かれたって…私の病気が治るわけじゃない!
謝って欲しいわけじゃない!お母さんが悪いの?違うでしょ?
こんな欠陥品で生まれて来た私が悪いんでしょ?
なのに…なんで誰もそう言わないの?」
音哉
「欠陥品で生まれてきたお前が悪い。そう言われればお前は満足なのか?」
優音
「違う!そうじゃなくて…そうじゃなくて!
他の子と同じ様に味の濃いご飯が食べられなくても
他の子と同じ様に学校に行ったり、思い切り走る事が出来なくても…
恋をしてドキドキしたり出来なくても…
お母さんが笑ってくれて…お父さんも笑ってくれて…
誰の事も泣かさないでいられる…みんなを笑顔に出来る…
私はただ…そうい子でいたかっただけなの…」
音哉
「笑
ふーん。良い子の天使。病院で聞いてはいたけど。本当にその通りだな…嘘だらけの分厚い仮面…
そうやって周りを欺いて、ずーっと逃げてきた訳だ?
親からも!周りの大人からも!自分からも!!!
なあ?人間てそんな綺麗なもんじゃないだろ?もっとドロドロしててずるくて弱くて…
それでも幸せになろうともがいて
成長して支え合って…
もっと生々しくていびつなもんだろう?
お前の本音はどこにあんだよ…この偽善者が!そんなんだから天使とか言われんだよ!」
優音
「私は、いるだけでいろんな人を悲しませてるのに…これ以上なにも…」
音哉
「楽で良いよなー?
何にも向き合わずに逃げ続けて
周りの望み通り良い子の天使でいれば
誰にも攻撃されない
誰にも傷つけられない
なあ?お前はいつまで天使のふりするつもりだ?
自分の本当の気持ちを無視して良い子ちゃんでいるつもりだ?
まさか、ずーっと、一生天使のフリし続けるつもりか?
そんなんなら…
さっさと本物の天使にでもなっちまえ!!!」
優音
「音哉になにがわかるの?私のなにを知ってるの?
小さい時からずっと病院にいて…やりたい事なんて何も出来なくて…
私がつらそうな顔するとお母さんはごめんねごめんねって。健康な子に産んであげられなくてごめんね。
代わってあげられなくてごめんねって泣くんだよ?
そんなの私、良い子でいるしかないじゃん!!!
なんで私なの?
私何か悪い事したの?
天使なんかじゃない!
良い子なんかじゃない!!
私が悪いって思ってなかったら…とてもじゃないけどやってられなかったの!!!
私だって!望んでいいなら!願って叶うならいくらでも願いたいよ!!!
みんなと普通に学校だって行きたかったし!おいしいものだってたくさん食べたかった!恋愛してデートだってしたかったし、結婚していずれ子供が生まれて、ママにもなってみたかった!
遊園地だって水族館だって、行きたいとこだってやりたい事だってまだまだ山ほどあるよ!でもどうせ叶わないじゃん!!!!」
音哉
「全部過去形だな?
だから?だから諦めるのか?そうやって物分りの良いフリして、結局逃げてるだけだろ!!!」
優音
「逃げてるのなんて、私が1番よく分かってる!でも!1人じゃ…とてもじゃないけど受け止めきれなかったんだもん…
本当はあたしだって諦めたくない!!
でもずっとそうだったから…
また望んだって無駄だって…むなしいだけだって思っちゃうんだよ!
でも!もし…もし…叶うなら…生きたい!!!
もっと生きて…誰かを愛して…誰かに愛されたい!
私だって…ちゃんと、ちゃんと愛されたいよ…」
■声をあげて泣き出す優音
音哉
「なんだ、言えるじゃねーか、ちゃんと自分の気持ち。
お前の心、ちゃんとあるじゃねぇか。
ここには俺しかいねーから、今までガマンしてた分も、全ー部泣いちまえ」
優音
「音…哉?」
音哉
「荒療治だったな…悪かった」
優音
「なんっ…でっ…」
音哉
「……」
優音
「もしかして…私が泣けるようにわざと?」
音哉
「出逢ってからお前、1度も心から笑ってる様に見えなかった。見てて…なんか痛々しかった。きっと色々抱えてて、泣くのとか本音言う事とかずっと我慢してたんだろうなって…だから少しでも心の荷物が降ろせたらって思ったんだけどっ…」
優音
「馬鹿っ!ほ、本当にっ…音哉に嫌われちゃったのかと思って…すっごく悲しかったんだからー!」
音哉
「悪かったよ…ごめん…優しい方法が、思いつかなかった…」
優音
「あー。こんなにちゃんと声出して泣くの何年ぶりだろう。いつも誰にも気づかれないように声押し殺して泣いてたから…
それに…言いたい事言えてすっごくスッキリした!
ありがとう!
今日はさ、本当に夢みたいだった。
間違いなく、今まで生きてきた中でダントツで一番楽しかった!
私、この日の事、絶対に忘れない!本当にありがとうね?音哉」
音哉
「なんで最後みたいな言い方するんだよ?全部過去形なんだよ!これからお前の足でお前の人生いくらでも歩いていけるだろ?今まで出来なかった事、たくさんやって、誰かを好きになって…誰かに愛されて…それで…幸せになるんだろ?」
優音
「私の心臓はね…もうすぐ止まる。ちょっとだけ、他の人に比べて弱っちかったんだ」
音哉
「優音、お前まさか…」
優音
「もう、ドナーがみつからないと無理だって…心臓に負担がかかるから味の濃い物は食べちゃいけないし、興奮してもいけない…
感情をあらわにしちゃいけない…
自分の身体だけど…私…自分の心臓もまともに………コントロール………出来、ないのっ…」
■優音、突然呼吸を乱して…
音哉
「優音…しっかりしろ!」
優音
(心臓を抑えて呼吸を乱しながら)
「生きる為に…いろんな事我慢して来たけど…今まで生きてるって感じた事は…1度も無かった…
今日、はじめて……生きてるって……
心の底から、私、ちゃんと生きてるんだって…思えた。
それだけでもうじゅうぶん…
お医者さんにねっ…次の発作が起きたら最後って…言われて…たのっ…」
音哉
「そんな…俺、お前のそういう事なにも知らなくてごめん…救急車…」
優音
「驚かせてごめんね?…でも最後の瞬間が病院じゃないなんて……本当に幸せだよ?これは嘘偽り無い…私の本音……
最後にいっぱい素敵な思い出作ってくれて…本当にありがとう…」
音哉
「今救急車来るからな?大丈夫だからな?」
優音
「ふふっ。先生以外の男の人に手握られるの……初めてだなー…おっきくてあったかい…私の手すっぽり包まれちゃって……男の人の手って·····感じ、する…」
音哉
「手なんていくらでも握ってやるよ…優音…まだやりたい事あるんだろ?」
優音
「音哉?ごめん…1つ……お願いしても…良い?」
音哉
「なんだ?」
優音
「もし叶うなら…私の事…ほんの少しだけで良いから…覚えてて…ねっ…音哉に出逢えて私、幸せだった。
出逢ってくれて…ありが…とうっ…」
■気を失う優音
音哉
「えっ?おい?嘘だろ?眠っただけだよな?おい!しっかりしろ!まだまだやり残した事たくさんあるんだろ?こんな所で死ぬな!おい!戻って来い!
優音!優音ー!!!!!」
…………………………………………………
病室にて……
SE︰心電図の音(あればで良いです)
■眠っている優音
■優音の手を握って優音をみつめている音哉
■優音、目を覚ます
優音
「んっ…」
音哉
「優音?」
優音
「んっ…あれ?音哉?へー、天国には音哉に似た天使がいるんだー。知らなかったなー。音哉に教えてあげたかったなー」
音哉
「優音?おい!気づいたか?天国じゃない!ここは病院だ!」
優音
「病…院??」
音哉
「ずっと眠ったままだったからまだ混乱してるみたいだな…」
優音
「病…院?ん?音…哉?」
■優音、いきなり起きあがる
音哉
「いきなり起き上がるな。大丈夫か?」
優音
「ここは…病院なの?」
音哉
「そうだ」
優音
「じゃあなんで、白衣着てるの?」
音哉
「順番に説明する」
優音
「私…発作で…次で最後って…」
音哉
「ああ。お前が倒れた直後に連絡があった。ドナーが見つかったって。だからヘリでこの病院に緊急搬送した。安心しろ。手術は無事に終わったぞ」
優音
「ドナー?手術?」
音哉
「俺が執刀した」
優音
「執刀?」
音哉
「俺、心臓外科医なんだ」
■音哉の白衣に付いている胸のネームプレートを見て状況が飲み込めない優音
優音
「難しい事ごちゃごちゃ言われてもわかんない!もっと…私にもわかる様にシンプルに言って!」
音哉
「お前の心臓は、もう大丈夫だ!」
優音
「もう、色々我慢しないでやりたい事やって良いの?」
音哉
「一般的な生活を送るには何も問題ないだろう」
優音
「私…生きてるって事?」
音哉
「ああ」
優音
「音哉が助けてくれたの?まだ…まだ私生きてても良いって事?」
音哉
「俺は神様じゃないからわからないけど…まあ、きっと…しばらくは」
■泣き出す優音
音哉
「本当に良く頑張ったな…よく…ここまでちゃんと負けずに生きてきたな」
■優音、まだ泣きながら音哉を見つめて
優音
「そう言うのってさ…もし彼氏だったら、きっと頭なでて、抱きしめながら言ってくれるんだよね?」
音哉
「俺は彼氏じゃないからなー」
■音哉、優音を優しく抱きしめる
優音
「えっ?音哉?」
音哉
「嫌だったか?」
優音
「ううん。嫌じゃない」
音哉
「じゃあ良いだろ?しばらくこのまま俺に抱きしめられとけ」
優音
「うん。えへへ」
■音哉、涙を堪えきれなくなり、優音を抱きしめながら
音哉
「優音。戻ってきてくれてありがとう。本当に…生きててくれてありがとう」
優音
「音哉…」
■2人、抱きしめながらしばらく泣きあう
■見つめ合う2人、やがて唇が重なりそうになり
優音
「ダメーっ!」
音哉
「なんで止めんだよっ」
優音
「せっかく元気になったのに、キスして心臓止まっちゃったら…怖いじゃんっ」
■音哉、爆笑する
優音
「わ、笑わないでよ!こっちは真剣にっ!」
音哉
「良いから黙れ」
■音哉、優音の唇に唇を重ねて
音哉
「どうだ?」
優音
「し、心臓…マジで止まるかと思ったーっ…」
音哉
(爆笑してから)
「お前っ…ちょっ、それ、可愛すぎかっ⸝⸝⸝」
優音
「だってっ!ほらっ⸝⸝」
■優音、音哉の手を自分の胸にあてる
優音
「ねっ?心臓、早いでしょ?」
音哉
「ほんとだな。すっげー早い」
優音
「音哉のは?」
音哉
「確かめてみるか?」
優音
「うんっ」
■優音、音哉の心臓に耳をあてて
優音
「ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
ふふっ。音哉だって結構早いじゃん」
音哉
「バレちまったかー。
なあ?頑張って動いてるな、お前の心臓」
優音
「うん!ちゃんと動いてくれてる。音哉の心臓も、頑張って生きてるね」
音哉
「ああ。命の音だな」
優音
「命の音…」
音哉
「生きてるって音」
優音
「うん!
音哉、私これから辛いことや苦しい事があってもちゃんと生きてくからね。この命の音を感じながら…
ちゃんと心から生きてるって思える様に、これから人生たーくさん楽しむね」
音哉
「ああ」
優音
「それで…もっともーっと大人になって素敵な女性になったら、今度は私が心臓止まりそうなキス、いつか音哉にしてやるんだから!
だから…覚悟しててよね?」
音哉(心の声)
『そう言って俺の未来の恋人は笑った。
なあ優音?
あの日、俺の方が仕掛けたハズだったんだ
なのに
あの涙を見た瞬間 恋に落ちていたのは
実は俺の方だったのかもしれない…
あんなにも苦しそうに
あんなにも必死に俺に叫びながら泣いてるお前を見て、不覚にも思ってしまったんだ
まるで天使みたいなキレイな涙だなって…
そして出来る事なら守りたいって思った
他の誰かじゃなくて俺のこの手で…』
END
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